2003年にStellar Stoneが開発し、GameMill Entertainmentが発売したトラック・レースゲーム『Big Rigs: Over the Road Racing』。Metacriticではメタスコア8/100点を記録しているほか、“史上最悪のゲーム”とも評される本作ですが、奇遇にも日本が誇るクソゲー『四八(仮)』と数字が一緒(?)である2025年の4月8日、権利を獲得したMargarite EntertainmentよりSteam版がリリースされました。

筆者自身は原作をプレイしたことはなく、ゲーム紹介動画シリーズ「The Angry Video Game Nerd(AVGN)」から知った、現代風に言うと“動画勢”です。“クソゲーである”という知識は得ていたものの、実際にプレイしていない作品を評するのはハードコアゲーマーとしていかがなものか、そう思っていた矢先のSteam版リリース。せっかくなので、この場を借りて本作プレイの様子に加えレビューをお届けします。
なお、筆者は原作版を所持していないため、当時の仕様については「AVGN」や有志の文献を参照しているほか、Steam版はリリース直後からパッチが複数配信されており、レビュー公開後のゲーム内容と差異がある可能性をご了承ください。
遊べなくはない、でも遊びたくはない―未完成であることが個性のクソゲー

まず本作の舞台はアメリカ全土、プレイヤーはトラックで荷物を運搬していくことになります。“運搬中にレースをするな、まず先に届けろ”と言いたくなるあらすじですが、ゲーム内にはそれらしい描写はなく、あくまでSteamストアページにのみ記載されているものです。
「昔のゲームにはストーリーが説明書にしか書かれてないパターンもあったな……」とノスタルジックな気持ちにさせられましたが、原作の発売は2003年11月20日となっています。ゲーム史的にPlayStation2やゲームキューブ、初代Xboxが展開されていた頃と考えると、若干時代遅れかもしれません。

そして本題となるゲームプレイは「Over the Road Racing」というサブタイトルに違いなくレース……のような何か。プレイヤーは4種のトラックから1台選び、走るコースを選択します。一定の中継地点を通過しゴールに到着するとクリアする仕組みですが、並走する対戦相手は必ずゴール前で止まるため、レースの意味をなしていません。

他にもキーボードのみに対応しているため操作性は悪く、障害物に当たり判定は無し、バックし続けると無限に加速するうえ、クリア画面の「YOU’RE WINNER !」という文法間違い()もあって“未完成品”と言っても差し支えのない出来です。

なお、この段階での筆者の印象は“史上最悪と呼ぶにはマシかな”という程度です。これに関しては個人差がありますが、“不快な画像や描写が挿入されることもなく”、“HDDなどPC本体にダメージを与えたり”、“開発者が開き直って購入者を煽り倒したり”するよりは、個人的に受け入れられる範囲であり、クリアまで良くも悪くも短い分、人生で失う時間も少なく済みます。
さらに、仮に本作の中途半端な部分が完成していたとして、面白くなっていたかと聞かれるとそれもそれで疑問です。2003年の原作発売前後のレースゲームを見てみると、『マリオカート ダブルダッシュ!!』『F-ZERO GX』『ニード・フォー・スピード アンダーグラウンド』などが存在します。一方、本作はコースもビジュアルの方向性も平凡で特殊なギミックも無く、対戦相手も1台だけ。皮肉なことですが、完成されていたら“逆にここまで話題になっていなかっただろうな”と思います。

冒頭で挙げた「AVGN」など各所で取り上げられただけでなく、今回のように長い時を経てSteam版がリリースされ、“クソゲーハンター”と呼ばれる方々に遊ばれている現状は正に「悪名は無名に勝る」を体現している作品といえるでしょう。プレイヤー側に致命的な損害を与えるゲームではないのもあって、本作はまだ笑って愛せる部類のゲームではないでしょうか。

Steam版では無料DLC「YOU’RE WINNER」を導入すると、実績やプレイヤー同士でタイムを競えるリーダーボードもあるので、ゲーム外と絡めた遊び方もできるようになっています。……とはいえ娯楽として虚無な内容であるのは否定できないため、筆者個人はこれ以降遊びませんし、余程のもの好きでなければ買うことはオススメしません。
余談―原作とボーナスコンテンツの話

本レビューは以上となるものの、評価に含めない余談として、ここからは第三者のソースを引用した原作の話や、Steam版のDLCを導入すると遊べるボーナスコンテンツについて補足していきます。
『Big Rigs』について取り上げているメディアには様々なものがありますが、ビデオゲームの解説動画などを投稿している「Matt McMuscles」いわく、原作は米国を拠点に置いた大手チェーン店「ウォルマート」専売のゲームだったそうです。
また、「AVGN」によるとゲームには修正版が存在し、発売当時のものは対戦相手が動きすらしないうえ、特定のステージでクラッシュが発生。修正版ではクラッシュが起きないうえ、対戦相手は(ゴールしないが)動く改善が施されていますが、勝利時のメッセージが「You Win!」と正しいものに変えられてしまっているそうです。
これらの情報を元に考えると、今回のSteam版は原作の修正前後を良いとこ取りした“ユーザーが求める『Big Rigs』決定版”といえるのかもしれません。

なお、本作ファンサイトでは開発に関わっておらず、ゲームエンジンのライセンスを渡しただけなのにリードプログラマーとしてクレジットされた……と主張するSergey Titov氏とのインタビューが掲載。原作がプレアルファ段階でリリースされたことに加え、元々1つの作品を2つに分けた内の片方であることを明かしています。
気になるのがもう一方ですが、その名は『Midnight Race Club: Supercharged!(Midnight Race Club)』。こちらは開発・発売元は『Big Rigs』と同じくStellar Stone・GameMill Entertainmentのレースゲームでありつつも、トラック以外の車種が選べるほか、障害物の当たり判定が追加されています。
では同作は改善版か?と問われると、バックし続けると無限に加速するだけでなく、対戦相手が必ずゴール前で止まる点が改善されていないため、レースゲームとして成立していない点は相変わらず。筆者が調べた限り『Big Rigs』ほど話題になっていませんが、あまり褒められた出来ではないのは同じようです。

ちなみに、“どうせならこっちもプレイしたい!”という方はご安心を。断言こそされていませんが、Steam版DLCには“どうやら『Midnight Race Club』の移植版っぽいゲーム”がボーナスコンテンツとして収録されています。

タイトルは『Big Rigs』な一方、下に小さく同作のタイトルが記されているほか、プログラム名も「Midnight Race Club Supercharged」です。クリア画面が「YOU’RE WINNER」となっている点からSteam版『Big Rigs』と同じく細かい変更が加えられている可能性は捨てきれないものの、特別ゲームとして面白いわけではないのは一緒です。興味が湧いた方もいるかもしれませんが本作の定価は980円、Steamで一旦他に何が買えるか考え直してみてください。
Game*Spark レビュー 『Big Rigs: Over the Road Racing』 PC(Steam) 2025年04月08日リリース
無料DLCでオマケ付きのクソゲー決定版―ゲームとしては虚無だが話のタネにはなる
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GOOD
- 比較的プレイヤーへの損害が少ないタイプのクソ
- リーダーボードによるゲーム外の楽しみ方の追加
- オマケのゲームも無料DLCで付いてくる)
BAD
- 未完成部分を抜きにしても単体ではリプレイ性の無い内容
- 話題作りの為だけに買うとしても定価980円は手を出しにくい