エリアLOVEWalker総編集長・玉置泰紀のまち散歩 第27回
4000本もの竹が一つの作品に!? 「瀬戸内国際芸術祭」で絶対見るべき《抱擁・小豆島》 作者のワン・ウェンチーさんが魅力を語ってくれた
2022年には70万人を超えるファンが集まった超人気の「瀬戸内国際芸術祭2025」春会期が2025年4月18日、開幕する(〜5月25日。夏会期、秋会期がある)。
4月15日と16日にはプレスプレビューが開催され、同芸術祭が推しの筆者も現地に駆けつけた。直前リポート第2弾では、香川県小豆郡小豆島町の中山地区に設置され、およそ4000本の竹を使用した巨大な構造物で知られるワン・ウェンチー(王文志)の《抱擁・小豆島》を紹介する。ワンさんは世界的に有名な台湾のアーティストだ。
ワンさんは2010年の第1回の芸術祭から今年の第6回まで、この地区で巨大な竹の作品を、地元の人たちとともに、竹を集め、一緒に編み上げて作品を作ってきた。今や、芸術祭の名物の一つだ。
今回の作品は、ドームの部分の高さは10m、ドームまで5mほどの高さなので、建築全体はおよそ15mの高さがある。ドームへのアプローチも60mと過去最長で、見事なつくりになっている。
ワンさんは「今回の作品は 《抱擁・小豆島》と名付けました。小豆島は私にとって特別な場所で、まるで第2の故郷のような存在です。『抱擁』という行為には、人と人、人と自然が繋がる瞬間の緊張感や温かさが込められています。この作品を通じて、訪れる人々に小豆島の魅力や地球との一体感を感じてほしいと思っています」と語っている。
ワンさんは1959年、台湾の嘉義県梅山郷の生まれ、父は石垣職人だった。故郷とツォウ族の集落とが近かったため、原住民(先住民)の手編み技術を見て、編織と人類の原始的な生活との関係に興味を持ち、編み方を基礎から学び、竹を素材として大型建築を編み上げることを決めた、と言う。
1997年、王文志は嘉義で、杉の木を組み上げた大型インスタレーション作品「大衣櫃」で、嘉義の人々の生活を表現した。その後、竹を素材とした初の大型インスタレーション作品「九九連環」を編み上げ、空間と人の関わりに改めてたどり着く。
2000年に台北市立美術館で展示した「観音」は、竹で鳥の巣状に編んだものを木の葉で覆い、吊るしたもの。2001年には、ベネチア・ビエンナーレで作品「方外」を発表。木でつくられた大きな桶になっていて、海外でも好評を得た。
ワンさんの作品は、さまざまな人との協力で生まれる。「小豆島の方々には竹の準備や制作の過程で協力していただきました。彼らのエネルギーと島への愛が、この作品に息吹を与えています。私にとって、作品は単なるオブジェクトではなく、人々との繋がりや地域との対話の結晶なんです。3月に来日して完成させたとき、地元の方々と一緒に作品を立ち上げる喜びを感じました」と語り、1回目の制作から、地域との絆が育まれてきた。
今回の過去最長のアプローチについては、「アプローチは、作品の内部にたどり着くまでの旅のようなものです。これまで私が作った作品の中でも、今回のアプローチは特に長いかもしれません。長い道のりを歩くことで、訪れる人は徐々に日常から離れ、作品の世界に引き込まれていきます。このプロセスは、小豆島の自然や地域の空気を感じながら、心を準備する時間でもあります。過去の作品でもアプローチを取り入れてきましたが、今回は特にその長さと空間の流れを大切にしました」と言う。
アプローチを過ぎるとドームの三角形の入り口が見えてくる。
「入り口は三角形の形状で、向こう側に中山の風景が見えるように設計しました。小豆島の自然や地域の空気を感じながら、作品の中に入っていく体験を大切にしたかった。たとえば、中山の山や田んぼの風景がフレームのように見える瞬間は、まるで島と対話しているような感覚になります。この入り口は、訪れる人を島の物語に導くドアのような存在です」
そして、いよいよ、印象的で美しいドームに入る。
「内部に入ると、竹でできた空間が広がっています。この空間は小豆島の形をイメージしていて、まるで島の中にいるような感覚になります。約4000本の竹を使い、地元の方々と一緒に作り上げました。訪れる人には、ぜひこの空間に入って、島や地球を抱きしめるイメージを共有してほしい。一緒に体験することで、作品の意味がより深まると思います。
丸い空間は、作品の心臓部です。今回は、いつもより少し高く、約2mほど、これまでの作品より、地面から浮かせた構造にしました。竹の編み方や組み方を工夫して、特に下部には細い竹を多用した新しい技法を取り入れました。この丸い空間は、人が入って初めて完成する場所。知らない人同士が隣に座って、自然と会話が生まれたり、新しい縁が繋がったりする。そんな『場』を作りたかったんです」
制作については、
「小豆島の中山地区の方々や、地元の皆さんと一緒に進めました。1月から準備を始めて、およそ1ヵ月かけて基礎を作り上げ、3月に私が台湾から戻ってきて最終的な組み上げを行いました。地元の方々が竹を集めてくれたり、毎日一緒に作業してくれたりしたんです。実は、作業中に地元の方が持ってきてくれたお酒の写真を見ながら、みんなで笑い合ったこともいい思い出です」
また、海外組との交流については、
「台湾から16人のスタッフを連れてきました。その中には、オーストラリア出身の3人も含まれていました。彼らは竹の編み方や構造に慣れているプロで、特に中心部分の制作で大活躍でした。地元の方々と国際チームが一緒になって、異なる文化や技術が交錯する現場は本当に刺激的でした。中山の皆さんが集めてくれた竹を、みんなで力を合わせて編み上げていったんです」
竹を素材に使っている理由については、
「竹はとてもエコな素材です。2年ほどで使えるようになり、木材と比べると成長が早く、効率が良いんです。それに、竹は柔軟で強度もあるので、大きな構造物を作るのに最適。今回の作品でも、竹の自然な質感が小豆島の風景と調和し、環境に優しいアートを作れたと思います。
制作には数ヵ月かかりました。特に竹を編む作業は時間がかかるんです。地元の方が竹を準備してくれて、私のチームがそれを編み上げるんですが、細かい技術と根気が必要。今回は新しい編み方を試したので、試行錯誤もありました。でも、その努力がこの空間を作り上げた。だからこそ、訪れる人にゆっくり時間を過ごして、空間の『物語』を感じてほしいですね」
地元の方々との交流で、印象に残っているのは、
「一番魅力的なのは、やっぱり『人』です。中山地区の皆さんが毎回、竹を集めたり、作業を手伝ったり、差し入れを持ってきてくれたり。本当に体力も心も込めて協力してくれました。彼らとの関わりが、作品に魂を吹き込むんです。たとえば、地元の方々が持ってきてくれた和食を食べながら、みんなで話す時間が大好きでした。それが小豆島の温かさですね。
毎回、制作中に地元の方が差し入れを持ってきてくれるんです。おにぎりやお菓子、時には小豆島の名産品も。一緒に食べて、話して、笑って。そういう時間が、作品に魂を吹き込むんです。地元の方々は私を『中山の一員』として迎え入れてくれて、まるで家族のような温かさを感じました。小豆島は私にとって、ただの制作の場ではなく、心の故郷なんです」
中山の風景について、
「中山の風景は本当に美しい。千枚田や山々が広がる景色は、初めて見たときに心を奪われました。この作品は、その自然と一体になるように設計しました。ドーム型の空間に入ると、鳥のさえずりや水の音が聞こえてくる。そんな五感で感じる体験を、訪れる皆さんに味わってほしいんです。作品は建築とは違って、雨や風も含めて自然と共にある。それがアートの魅力だと思います」
芸術祭を訪れる人へのメッセージ、
「ぜひ《抱擁・小豆島》に来て、竹の空間で心を静かにしてください。自然の音を聞き、風景を感じ、隣の人と新しい縁を繋いでほしい。この作品は、皆さんが入ることで完成します。小豆島の自然と人々の温かさが、きっと心に響くはずです」
■施設概要
作家:
ワン・ウェンチ―(王文志)
作品名:
《抱擁・小豆島》
場所:
肥土山/中山
開館時間:
9:30~17:00
休業日:
会期中のみ公開(5/14、21、8/20、10/22、29(いずれも水曜日)は休み)
展示会期:
春・夏・秋
料金:
500円
■瀬戸内国際芸術祭概要
会期(計107日間):
春会期:2025年4月18日~5月25日(38日間)
夏会期:2025年8月1日~8月31日(31日間)
秋会期:2025年10月3日~11月9日(38日間)
会場(全17エリア):
全期間:直島、豊島、女木島、男木島、小豆島、大島、犬島、高松港周辺、宇野港周辺
春会期:瀬戸大橋エリア(坂出市:沙弥島、王越町、瀬居島)
夏会期:志度・津田エリア(さぬき市)、引田エリア(東かがわ市)
秋会期:本島、高見島、粟島、伊吹島、宇多津エリア
新規エリア:志度・津田、引田、宇多津。直島では「直島新美術館」(2025年5月31日開館予定)も会場に。
チケット・料金:
・全会期に使用可能なオールシーズンパスポート
*春・夏・秋の全会期で使用可能で、芸術祭の参加作品(施設)が各1回鑑賞できる(一部別途料金が必要な施設あり)。2025年4月18日から販売。地中美術館や豊島美術館など一部の作品や施設等は、別途鑑賞料等が必要。パスポートではなく、各作品ごとで入場料を払って入ることも可能。春夏秋のシーズンごとのチケットは4,500円。
一般(19歳以上):5,500円
ユース(16~18歳):2,500円(要身分証)
15歳以下の鑑賞料:無料(一部施設、作品を除く)
・前売り券は2025年4月17日まで販売:4,300円
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