これまでも書かれてこなかった、そしてこれからも書かれることがないであろう、あろえに焦点を当てた『Swan Song』のレビュー記事。障碍研究(disability studies)では、健常者を特権化する能力主義(ableism)の問題がしばしば議論されている。この記事ではその考え方を敷衍し、正常性(normalcy)をつくりだす構造的暴力について、自閉症のあろえの分析を通して考えてみたい。 本篇の前日譚である「プレ・スワンソング」という短編がHPに掲載されている。このなかで、育児放棄したあろえの母親は「あの子は病気なのよ。あんな獣じみた子が、人間と一緒に暮らせるわけないわ」と言っている。それに対し、あろえとふたりで暮らしている姉は「病気じゃないわ、障碍よ」と返す。あろえの病気が治るかどうかをしきりに気にする母親は、あろえの障碍を医療ケアによって治すべきものとして捉えている。 障碍は健常と
