以前、音楽データの入ったハードディスクが壊れかけたことがある。最終的には一部のデータを除いて救出することができたが、20年近くかけて集めてきた音楽データの全てがある日いきなり聴けなくなり、消えたかもしれないというような可能性に向き合うのはかなり辛いものだった。それは、単にデータが消えてしまったということ以上に、まるで自分がそれまで音楽に注ぎ込んできた時間全てが消去されてしまったかのような感覚だった。その喪失感は、初めて経験する類のものだった。 音楽というのは、時間芸術である。スタート地点とゴール地点が明確に設定されていて、聴者は必ずスタート地点からゴールに向かって聴いていかなければならない。例えば60分のアルバムを倍速で聴いてもそれは聴いたことにはならないし、後ろから逆回しで聴いても同じことだ。60分のアルバムを聴くためには必ず60分の時間が必要なわけで、さらに2度・3度と聴いていくならば
