今月14日に行われた13回忌では400名ほどの参列者を集めた日本を代表する俳優の三國連太郎氏(2013年没、享年90)。同会では、映画「釣りバカ日誌」シリーズの朝原雄三監督が「三國さんが『釣りバカ日誌』に20本も出演されたのは、西田さんという天才に勝ちたかったから」という秘話も披露したが、当の三國さんはどんな思いだったのだろうか。
三國さんと30年来の付き合いで、最晩年まで取材を続けたノンフィクション作家の宇都宮直子氏の『三國連太郎、彷徨う魂へ』(文春文庫)より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/最初から読む)
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「映画界に、親しい友人はいません」
関係者の多くは、三國を扱いの難しい役者だと考えている。
彼らの中には、関わりを避けたがっている人間もいたし、もみ手で寄ってくる「連中」もいた。
「僕には映画界に、親しい友人はいません。皆無です」
そうした状況を、彼はおそらく歓迎しているだろう。
三國は群れが嫌いだ。生来、話すことも好きではない。話さないでいいと言われたら、十日くらい、まったく話さないでいられる自信がある。
だから、孤立や孤独は、彼を不幸にしなかった。むしろ、彼はそこにしか生きられない。どこにいても、どんなときも、彼は用心深く、人と距離を置く。そして、その場所でいつも考えている。
虚の芸術に、いかにして真を織り込むか。社会だけではなく、自らに針を深く刺して……。
ハマちゃん役・西田敏行に注意した日
「『釣りバカ日誌』の面白さは、権力の逆転にもあると思います。会社での会長と平社員という関係が、趣味の釣りでは、師匠と弟子に変わる。その辺の痛快さというのはあるんじゃないでしょうか。
ハマちゃんを演じている西田(敏行)くんは特異な才能を持った俳優です。既成の枠を飛び越えた芝居をする。それが魅力でもあるのでしょうが、やりすぎると作品を壊してしまいます」
三國は、西田に、ロケの現場で注意をしたことがある。あなたの演技は、少し先行しすぎているのではないか。金沢の蕎麦屋でのことだった。
「アドリブが多すぎるんです。もっと相手を考えた芝居をしてくれないと、周囲が迷惑をする。僕にとっても迷惑でした。
彼は最初、唖然とした顔をしていましたが、申し出を理解してくれ、それからは安心してついていけるようになりました」
そう言って、三國は笑った。

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