「友人を何人も失った」。米南部テキサス州で3月に開かれたDEI(多様性・公平性・包摂性)をテーマにした座談会で、米IT(情報技術)企業、ロジックトライのチェルシー・トーラー最高インパクト責任者(CIO)は目をうるませた。DEI施策の一環として女性活躍への投資継続を明言したことで、周囲から距離を置かれているという。

 今、米企業はDEIを腫れ物のように扱っている。トランプ米大統領は3月4日の施政方針演説で、「いわゆるDEI政策という専制を、連邦政府や民間企業、軍に至るまで終わらせた」と言及。政権や保守派活動家を刺激することを恐れ、米テクノロジー大手の担当者は座談会への参加を見送った。

 DEIへの逆風はハラスメント問題とも密接に関わる。米国ではハラスメントを雇用差別の一形態と捉えるためだ。公民権法などが定める人種、性別といった「保護カテゴリー」に基づく、歓迎されない言動を指す。こうした言動が継続し、合理的な人が見て敵対的な職場環境をつくる場合、法的責任を問われる。

 そのため、人種・宗教などへの理解不足や文化の違いが予期せぬトラブルを招くことがある。日本企業の駐在員が指摘されやすいハラスメント事例をまとめたのが下の図だ。

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 例えば、ユダヤ教徒の同僚を安息日に当たる金曜日の飲み会に何度も誘い、断られた際に「ノリが悪い」と言うのは不適切だ。社内の懇親会での「いじり」も、人種や民族に関わる場合はハラスメントと捉えられかねない。年配の従業員に「お孫さんは元気ですか」と繰り返し尋ねるのも、年齢に対する偏見と受け取られる恐れがある。

 加えて、反DEIの風潮が新たな論点として浮上している。DEI施策を推し進めることは「多数派」への逆差別に当たるとの指摘が広がり、白人などへの偏見を理由とするハラスメント訴訟の増加が懸念されている。

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