自分を労るための「ひとリート」、何から始めようか迷っているなら、ひとり温泉はいかが? 今回は温泉ライターの高橋一喜さんにインタビュー。高橋さんが温泉にハマったきっかけや、提唱している“ソロ温泉”や“独泉”の魅力、行き先の選び方などを聞いてみました。
「ひとリート」とは…
半日~日帰り・1泊2日程度の「一人で楽しむリトリート体験や旅」を表す造語。yoi発の、心と体のセルフケアに役立つ時間の使い方です。
日常では味わえない、温泉でひとりになる時間
——まずは高橋さんがひとりで温泉を楽しむことにハマった経緯を教えてください。
高橋さん:もともと温泉が好きで、最初は友達や当時付き合っていた彼女と各地の温泉をめぐっていました。しかしハマりすぎて行きたい場所もだんだんマニアックになってしまい、誰もついてきてくれなくなった、というのが一人で温泉を巡り始めた理由です(笑)。でも温泉が好きだからこそ、ひとりだとじっくりお湯と向き合えるんですよね。オタク心を存分に発揮できる!
あとは編集者として働いていたこともあって、仕事がとにかくハードだったんです。徹夜や休日出勤も当たり前で、心身ともにしんどいし、ひとりになる時間もなかった。そんなときに温泉で一人になれるのが心地よくて、本当にリラックスできるなと感じました。特に1週間など長期で滞在する湯治スタイルだと、同じように長く滞在している人と自然と会話などをするようになるので、孤独を感じることもなくすごく快適で。ひとりでマイペースに、暮らすように過ごせる。だから“ソロ温泉”だけでなく、長期で滞在する“温泉ワーケーション”もおすすめしているんです。
——今ではワーケーションが一般的になりましたが、高橋さんは何年も前から“温泉ワーケーション”されていますよね。
高橋さん:かれこれ15年以上は続けているんじゃないでしょうか。今はリモートワークを選べる人も増えていますし、温泉街が自治体と組んでワーケーションを打ち出している、というパターンも少なくありません。連泊や一人向けプランを用意している宿も多いので、温泉ワーケーションしてみたい!という人は今すぐにでも始められると思います。ただ小さめの温泉地だと周囲にコンビニや飲食店がなかったり、ワークスペースやWi-Fi環境が整っていないことも。最初はワーケーションをおすすめしている宿から選んでみてください。
小さい温泉地の情報は“好みが似ている人”のSNSで探す
——ひとりで温泉に行ったときは、どうやって過ごすのがおすすめですか?
高橋さん:ひとり旅の一番の魅力は「自由」であることなので、基本的には何をしてもいいと思うのですが、個人的なおすすめは“あえて何もしない”こと。温泉地へ行くと「ここに行かなきゃ、食べなきゃ、温泉にたくさん入らなきゃ」と考えがちですが、そういう思考に縛られず、何もしないでいられるのはソロ温泉の特権です。何もしない時間って、実は日常であまりないですよね。ダラダラしたり、畳の部屋で昼寝したり、昼からお酒を飲んだり…日常ではできないだらけ方をするのも、温泉宿に泊まるメリットだと思います。
——では、行き先を決めるときは何を重視したらいいですか?
高橋さん:人が多い観光地の温泉は、カップルや家族連れが多くて孤独を感じてしまうかも。だから観光地化があまり進んでいない、昔ながらの温泉地がおすすめです。有名温泉地以外に目を向ける、という視点が大事。家族経営でやっているような小さい宿だと、スタッフの方も温もりのある接し方をしてくれることが多いですよ。
——なるほど。でも有名じゃない温泉地はガイドブックなども少ないです。どうやって情報をピックアップすればいいのでしょう?
高橋さん:おすすめなのは、SNSなどで温泉情報を発信している人を探す方法です。発信している人もそれぞれ「泉質重視」や「宿重視」、「食事重視」など特徴があるので、重視するポイントが似ている人を探すと、情報も見つかりやすいはず!
ひとりで楽しむ温泉の醍醐味“独泉”とは?
高橋さんがこだわる“独泉”とは、温泉の湯船にひとりでつかること。ひとりで温泉を楽しむ人にとって、これ以上ない贅沢な時間です。“独泉”をするためには何が必要なのか?教えていただきました。
高橋さん:せっかく静かなひとり時間を作るために行っているので、湯船もひとりで独占できたら最高に気持ちいい! 大きい露天風呂を独占するのもいいのですが、小さめの湯船でひとり独泉も結構いいんですよ。湯船が大きすぎると、新しい湯に入れ替わるのに時間がかかりますし、加水や循環ろ過によってお湯の個性が薄まったりすることも。湯船が小さいとそういうことがないので、お湯の鮮度が高く、本来の個性を感じられます。気の抜けたビールよりも注ぎたてのビールの方が美味しいように、温泉も注ぎたての方が新鮮なんです。
独泉の極意①:規模の小さい宿を選ぶ
高橋さん:やはり多くの人が宿泊しているホテルだと、独泉は難しくなります。まずは小さめの宿を狙いましょう。10部屋以下であればバッティングする可能性が低く、独泉チャンスもグッと増えます。
独泉の極意②:時間をずらす
高橋さん:夕食の前にお風呂、という人が多いので、16時半〜17時半頃は混みやすい時間帯と言えます。そこを避けて狙いたいのは、以下の4つのタイミングです。
・夕食スタート時間の直前
夕食の時間を18時からか19時からかを選べる場合、18~19時のあいだは半分の宿泊客は食事をしているので、必然的に入浴客が少なくなります。夕食は19時からを選び、18時以降に入浴すると独泉しやすいかも。
・チェックインしてすぐ
チェックイン開始時間(たとえば15時)直後は、まだ到着していない客もいますし、部屋で一息つきたいという人が多いです。
・早朝/深夜
何時まで入浴可能かチェックしておきましょう。朝の一番風呂は気持ちよさも格別です。
・夕食後
食後も意外と入浴する人が少なめ。就寝前に温泉で体を温めると、寝付きもよくなります。
独泉の極意③:絶対独泉したいなら貸切風呂へ!
高橋さん:宿選びや時間帯を工夫しても、独泉できないことももちろんあります。絶対に独泉したい!という人は、貸切風呂を予約しましょう。100%独泉できますし、後から人が入ってくることもない、自分だけの空間を満喫できるはずです。
独泉の極意④:独泉は“できないのが普通”だと思おう
高橋さん:独泉は素晴らしい時間だしおすすめしたいですが、必ずできるものではありません。宿のお風呂や公共浴場であれば、ほかの人がいて当たり前。ひとりになれないことでストレスを溜めてしまっては本末転倒です。独泉できたら「なんてラッキーなんだ!」と思うくらいの気持ちでいるのがいいですね。
イラスト/きだなつみ 構成・取材・文/堀越美香子 企画/木村美紀(yoi)