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「労働市場の未来推計 2035」パネルディスカッション(全2記事)

2025.04.03

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「日本人は勤勉だ」は神話になりつつある 労働市場の構造的な問題がもたらす、生産性が上がらない根本要因

提供:株式会社パーソル総合研究所

今の日本が直面する深刻な課題は、「人手不足」ではなく「労働力不足」と呼ぶべきかもしれません。株式会社パーソル総合研究所の「Think Forward 2025 春」で行われたセッションでは、デジタル庁統括官の村上敬亮氏をお迎えし、パーソル総合研究所と中央大学の共同研究「労働市場の未来推計2035」を基に、単なる頭数では語り切れない「労働力不足」が進む日本の未来について、研究員の井上氏と中俣氏と多方面から語り尽くします。

「労働力不足」が進むこれからの世界

井上亮太郎氏(以下、井上):モデレーターの井上と申します。よろしくお願いいたします。

私は研究員という立場でもありますが、どちらかというと労働市場の未来推計を行った側ではありません。今日お聞きに来ていただいているみなさんと同じで、ぜひこのお二人にいろいろと質問していきたいと思っております。

私も先ほどの中俣研究員の発表を聞きました。そこで、ちょっと気になったことが1つあったんです。これからは、人手不足ではなく労働力不足だと。

しかし、やはり人手不足と言ってしまいますよね。確かに、先ほどGoogleトレンドを調べたところ、「労働力不足」よりも「人手不足」という表現が2013年から一気にガーンと伸びているんですね。

なので、私たちは一般的にどうしても「人手不足」という頭になっている。だから、これからは中俣も言っていましたが、労働力として捉えていく。そのように切り替えていかなければならないのかなあと、聞かせていただきました。

それではまず、村上さんにお越しいただいているので、ここからは村上さんから見た世界観、労働力不足が進むこれからの世界について、感想も交えてご紹介いただければと思います。よろしいでしょうか。

村上敬亮氏(以下、村上):まずは中俣さん、ありがとうございました。大変勉強になりました。推計という意味では、もうおっしゃるとおりだと思いますが。

人材ビジネス市場の文脈では、最近、スポットワークが話題です。大切な議論だと思うのですが、ただ、単純にそこを目指すという議論には、個人的に異議があります。

スポットワークと呼ぶのは良いのですが、問題は、どのようなスポットワークを育成するのかにあると思います。裏を返すと、そろそろ正規、非正規という言い方をやめ、柔軟な雇用のあり方という一点に置き換えて考えるべきかと思います。

派遣業態が抱える構造的な問題点

村上:非正規悪者論をしたいわけではありません。そもそも非正規市場がなかったら、何兆円という規模に育っている今の人材ビジネスは成立しなかったし、非正規市場があるからこそ、労働市場に新たな生産人口の流入がもたらされたと考えています。非正規市場が労働市場の発展に果たした役割はとても大きいと思います。

しかし、このまま放っておくと、正規と非正規の比率が“50—50”になってしまうかもしれない。これは少し行きすぎだと思っています。

グラフを見ていただくと、パート・アルバイトが1,500万人ですよね。しかし、人材市場の何兆円という売上の多くは、このうち、たった138万人しかいない「派遣社員」で売り上げている、大分偏りのある市場なんです。

派遣人材の給与相当分は、いったん派遣会社の売上になりますから。派遣実績が伸びれば伸びるほど、会社のPLが伸びていく。ゆえに株価が上がる。それを基にファイナンスができる。数が力になるのです。しかし、今後、人口も労働人口の総数も減っていくと、状況は変わっていくことになると思います。

本来、派遣業は、非常にビジネスリスクが高い。派遣社員が何か問題を引き起こした時の責任というリスクを常に伴うからです。なので、派遣社員の業務はここまでしかやりません。それでもなお、追加的に業務をやらせた場合に発生したリスクについては、派遣会社の責任ではありません。そう言わなければならないのです。

ところが、人口減少に伴い派遣社員の人数も伸びないという話になると、状況は変わってきます。PLが良くならないまま構造的リスクだけが膨らみ続けるからです。なので今、大きく変わっていく節目をまもなく迎えるのではないかと考えています。

日本人の4〜5人に1人は相対的貧困

村上:この2,000万人の(非正規雇用の)うちの、ほんの138万人(の派遣社員)が人材市場を作っているという、ゆがんだマーケットの構造は、逆に言うと一生懸命パート・アルバイトをしている人たちからすると、もう少し、こちらのことも助けてくれても良いのではないかと感じる市場になっています。

例えば、転職シーンを考えてみましょう。仕事を探すところでWebを見て、口コミを見るところでまた別のWebを見て、会社の評判を探すところでまた別のWebを探して、その上で手続きを調べ……。1回転職するのに4つか5つのサイトを渡り歩いて、携帯電話を使い倒しまくって、それで転職した先が隣の隣のスーパーでした、というような状況になっています。こういう非効率は、修正しなくてはなりません。

もう一つ大事な話があります。貧困問題です。シングルマザーの半分は相対的貧困だという統計はご存じでしょうか。

相対的貧困とは、大雑把に言えば所得階層を4つに割った時の下4分の1に入っている人ということです。相対的貧困層は全体で見ても20パーセント弱あるので、例えば、渋谷のスクランブル交差点を歩いている日本人の4~5人に1人は、相対的貧困層だと思っても大げさではないと思います。これをなんとかしないといけないということなんですが、次のページをお願いします。

スライドの左側は、労働時間あたりのGDPですね。こう見ると、日本より韓国が下なのですが、実は右側のグラフのとおり、1991年を1.0として見ると、1990年代以降、日本の労働生産性って伸びが止まってるんです。

「日本人は勤勉だ」は神話になりつつある

村上:時間当たりではなく1人あたりで労働生産性で見ると、特にリーマンショック以降当たりから、ほぼ伸びていません。その上、日本の労働時間は今、減っていますから、この生産性が低く労働時間も減っている我が国が稼げなくなるのは当たり前なんです。それでも昨年は、速報値ベースでGDPが600兆円に乗ったということなので、もう感動しています。

「日本人が勤勉だ」は、全国民的に見ると神話になりつつある。それはなぜか、そこから労働問題の議論をスタートしなくてはなりません。

第一に、非正規の問題だと思います。契約社員は微妙なのですが、少なくとも派遣会社は自らのビジネスリスクを回避するために、あらかじめやるべきことの範囲を派遣社員には決めてしまっている。

ちょっと前、かっこいい女優さんが演じる派遣社員さんが、正規雇用の人を見返すような仕事を次から次へと実現していくドラマをやっていましたが、そう簡単にはいきません。万が一何かあって揉める可能性があることを考えると、派遣会社のリスクになることは間違いありません。

労働人口のうちの2,000万人が「これ以上のことはやらない」というルールの下に縛られているわけですから、構造的に生産性が上がらない。3,000万の正規の人たちも、優れた良い派遣社員がいると、事実上、任せるだけ任せておいて、正規職員の方がサボタージュしている現場が、サービス業などでもあるわけです。

逆にこれから課題になるのは、エッセンシャルワーカーのお給料。需給に照らすと安すぎると思います。実は、今後、どんなにAIがヒトの仕事を置き換えるといっても、エッセンシャルワーカーの仕事は残る。

例えば、地域のサービス業で困っている話題の一つが、掃除する人が雇えないということです。部屋を隅々まできれいに拭くのって、ロボットとAIでは限界がある。人じゃなきゃ無理なんです。

そこで雇えないと何が起きるかというと、清掃員が雇えないという理由で、宿泊業などのサービス業がその規模を維持できず、結果採算割れを起こし撤収と言うことにすらなりかねない。ホテルのリネンの交換なども典型ではないでしょうか。今の技術では、ロボットではリネンをピッときれいに替えられないんです。

「家庭の時間」と「労働時間」のミスマッチが生む問題

村上:今後5年間、特にエッセンシャルワーカーの給料を上げざるをえない、あるいは、正規でも非正規でもない、違う就業形態が出てくると僕は思います。労働市場の5分の2が、非正規という構造的非生産性職種であるという問題をなんとかせんことにはどうしようもないと。

1980年代の労働市場の規制改革によるイノベーションは、これまでの労働市場に、労働力の共有、女性の社会進出など、多くの恩恵をもたらしました。しかし、その後の市場の進化が、止まっていたと思います。

次のスライドです。労働市場の問題は、地方創生を考える上でもすごく大切だと思います。男性と女性の非正規率を見てください。少し前の労働白書から持ってきており、多少改善していますが、大きな傾向は変わってないと思います。手元に最新データがなかったのでお許しください。

男性の場合は30歳、40歳が非正規率のボトムですが、女性は逆に30歳、40歳に山ができてしまう。子育てと家庭環境で必要な時間帯と労働時間がマッチしてないからではないかと思います。

テトリスのようなイメージかもしれません。子育てに必要な時間が、硬直的な正規の就業時間の枠に対して、L字やT字の形で降ってくる。だから上手くはまらない。ならば全部バラバラのブロックにしてしまえば良いのではないかと考えると、スポットワークの発想にもつながると思います。

しかし、これには難題が伴います。多様性が重要だ。それを束ねるビジョンや、組織に対するエンゲージメントが重要だと言っている時に、テトリスのブロックをみんなバラバラにしてしまって、バラバラになったピースを束ねなければならない会社が、うまく事業を回せるのかという課題です。

雇用形態や、就業時間の柔軟性はとても大切です。特に、子育てや介護の事情に合わせて仕事が調整できるか。これは死活的問題です。だからといって、非正規やスポットワークにいきなり話が飛ぶのは、やや飛躍がありませんか? 正規の側が労働契約の中身を工夫する努力を怠っているから、そういう話になっているだけではないのか。

人事労務の現場は、複雑なルールと実務の上に組み上がってしまっていますから、何かをいじるとどこかで問題が出る。変えるに変えられなくなっているような気がするのです。

一番難しいのは、柔軟な雇用形態を認める職員と従来型のルールの職員との間の線引きです。協定もありますし、現場の課長さんが疑問のある職員一人一人に説明しきれるのかとか。すごく深刻な課題です。

柔軟性があるのは「結果重視」な職場だが……

村上:しかし、ただ手をこまねいていたら、会社の労働の質が上がらないだけです。これは労働問題だけでは解決しません。

例えば、公共交通機関をもっと充実させないと。地域のお母さんの昼間の時間の3分の1は、下手をすると家族や特にこどもの送迎に使われている。また、その送迎する場所にいなくてはならないし、前後に余裕も必要だから、前後の時間も埋まってしまう。やはりこの問題は、真剣にどう解決するかを考えないといけません。

正規・非正規だって言ってる場合じゃなくて、どちらにしろこの問題にかたをつけないと。したがって、最重要課題は、労働の就業形態の柔軟性を維持しつつ、多様性を組織の中に持ち込み、エンゲージメントを落とさず、みんなで「行くぞ! おー!」ってやらなきゃいけない。これが難しいのだと思います。

ベンチャー企業を中心に、事実上そうなってきている面はあると思います。しかし、規模が大きくなり始めると、やはりルールが必要となり、中間管理職の裁量性と管理能力の問題となり、早晩、同じ局面に到達する。

このため、あまり正規や非正規と言わずに、民法的に言うと準委任(主に特定の業務を外部の専門家へ依頼するときに用いられる業務委託契約の一種)というかたちをとるなど、いろいろな工夫は、現場によっては始まっていると思います。

働ければ収入は上がります。正規・非正規のルールよりも、働きやすい職場で目一杯働いてもらうことで収入も上げる。この基本に帰るべき時期が来ているように思います。

フルタイムで必ず出勤というのは、むしろエッセンシャルワーカーのような業態に向いています。就業時間のパターンを決めて、その間は決めた作業をちゃんとやってくださいね、というパターンが向く。これに対して、成果オリエンテッド(重視)に、どんどんプロジェクトベースで結果を出すタイプの仕事は、「どこで仕事してるかなんて知らないけど、とにかく結果を出せ」という意味で、柔軟性は保ちやすい。

ただ、どういうルールにするにせよ、現場の管理ノウハウがついてこないと、協約の遵守、能力の逆転など、現場の上司が悲鳴をあげることになる。優秀な部下社員が現れても、年功序列で組織の論理で押さえ込まずに、労務管理のプロがちゃんと使いこなせるようなルールに変えられないか、そんな課題も出てきそうです。

ジョブマッチがうまくいかない原因は

村上:そうなってくると、組織設計から含めて変えていかないとダメだという話になる。それと並行して、労働市場が、どうやって柔軟性を確保し、人材のスキルと会社のプロジェクトをマッチさせていくか。両方の取り組みが必要になります。

ウェルビーイングが最近、頻繁に話題になるようになってきました。確かに、幸せに確たる定義はありませんが、重要な要素として、社員一人ひとりのやりたいことと、やっていることが一致しているかどうかがあげられます。

「やりたいこととやっていることが一致している状態」。雇用する組織の課題と労働市場側の問題と、両面から取組を引っ張っていく上では、Well-Beingの向上といった両側をまたぐビジョンを上手に取り入れていくことが大切になりそうです。

最後のスライドとして、構造的課題を仮にマッピングしてみました。働きやすい正規雇用と多様な雇用形態が重要だという視点からまとめています。


これらを満たすためにも、重要なのは、必要なスキルの言語化です。しかも、こうした問題は、労働市場側からだけアプローチしても限界がある。経営そのものの問題です。ジョブマッチがうまくいかない原因の8割は、雇いたい企業が、どのような人が欲しいかを言語化できていないことにある。その点について言及させてください。

自分の経験で恐縮ですが、初期の地方創生の取組の一環として、プロフェッショナル人材戦略事業を立ち上げ、以来安定して月に100人前後、都市部の大企業の方を地方の中小企業に転職するお手伝いをしています。

当初は、5年もやったらさすがに実績が落ち始めるのではないかと思っていたのですが、10年近く経った今も勢いが良く、先日、大阪のセンター長にお会いしたら、「今年は史上最高の成績です」と言われました。

このプロ人材事業を立ち上げた時にも、一番大変だったのが、ジョブディスクリプション(業務内容などをまとめた書類)をちゃんと書いてもらうこと。もっと言うと、社長ご自身に正しく経営課題と向き合ってもらうことでした。

人事採用と現場需要のミスマッチが起きている

村上:例えば、あるアルミ樹脂工場の社長は、「うちはデザインが弱い」と信じきっておられました。ところが、ホンダでF1の開発チームのリーダとしてエンジニアリングに携わってきたプロフェショナル戦略事業センター長が現場を見て、「いや、これはデザインの問題ではなく品質の問題だ」と指摘。

そのアドバイスどおりに品質管理のプロを雇ったところ、あっという間に工場の利益率が改善したのです。そうしたら中小企業の社長の決断と行動は早い。「第1工場だけじゃなくて第2工場の品質管理者も欲しい」と言って、あっという間に全体の利益率を上げていった。こんな話をたくさん伺います。

例えば、中国地方で人気のあるお豆腐屋さん、正方形のパックを3段重ねにして販売する商品があるのですが、そのラッピングの仕上げで包むところでミスが出る。それを廃棄処分していたというのです。それを徹底して直し、100パーセント近くに歩留まりを引き上げたら、あっという間に利益が上がりました。

そういう意味でも、ジョブマッチでは、雇われる側のスキルの明確化だけでなく、会社が何を求めているのか、何を求めるべきなのかをちゃんと言語化しなくてはならないのです。

悩ましいのが、社長さんは、会社のことは自分が一番わかっているという意識が強いので、なかなか専門家のアドバイスを聞いてくれません。そこでプロ人材事業では、この人が話せば、自分に自信のある中小企業の社長さんたちが話を聞いてくれる。そういう方をセンター長にするための人選に力を入れました。

例えば、広島県の場合、マツダの前専務にお願いをしたんです。確かに、広島の中小企業の社長からすると、マツダの前専務といったらほぼ神さまですから、「はあ! そうですか! 専務!」と言って直ちに言うことを聞いてくれる。しかし、まったく同じことを前日に経営診断の専門家が言っても、こちらにはなかなか反応してくれません。

自分は、この問題も労働支援の中に組み込まなきゃいけない大問題ではないかと思っています。

しかし、必要な人材の定義を人事部にやってくれといっても無理があります。しかし、人事部が現場の事業部に「定義してください」とお願いしても、「良い人を採ってくるのが人事部の仕事だろ!」みたいな話になる。こんなやりとりを繰り返していたら、いつまで経っても人材なんか採れません。デジタル庁でも似たようなことが内部的には起きています。

では現場が自分で採用できるかというと、それはそれで難しい。やはり人事の理屈が合ってないから変な人を採ってきちゃう、ということも含めて簡単ではありません。

芸能人には一人に対して一人のアシスタントがつきます。一般の労働者の場合、一人ひとりは難しいですが、その代わり、デジタルのおかげで一人が複数のアシストを出来るようになる。

芸能人だけでなく労働者に対しても、働き方や労働契約などをアシストする業態、キャリアコンサルの延長線上のような世界がもっと伸びていかないと、労働者に、自分ひとりの力だけで最適な市場を探せと言っても無理ではないかと思います。

今のキャリアコンサルさんは、そのカバレッジも能力もさまざまですけれど、いずれにせよ、今日お話したような企業の中の経営課題と必要な人材の言語化、それを支える企業ガバナンスの確立と、正規・非正規の別を超えた柔軟な働き方の確立、そして、ここの労働者の努力とスキル磨き。これらがもっと絡んでいかないと、ジョブマッチの比率は上がっていきません。労働市場という枠にとらわれず、全体をよく見ていくことが必要だと思います。

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