ベストセラー『デンマーク人はなぜ4時に帰っても成果を出せるのか』著者で、デンマーク文化研究家の針貝有佳氏が登壇した本イベント。本記事では、のんびりした国でありながら国際競争力トップクラスのデンマークについて紹介します。
デンマーク人の1日のスケジュール
針貝有佳氏:では、話題は変わりまして、ワークライフバランスについてお話をさせていただきます。デンマークの首都コペンハーゲンは、ワークライフバランスを実現している都市1位に選ばれました。実際、デンマークの春夏の午後の公園の芝生ではこんな感じの風景が見られます。もう本当に、午後の3時、4時ぐらいから、芝生に寝そべって日光浴をしている人たちがたくさんいるんですね。
「デンマーク人のライフスタイルは?」。こちらは私が今ちょうど座っているシェアオフィスになるんですけれども、本当に4時に帰ります。そしてもっと早いことも、早い人も多いですね。
典型的なデンマーク人の1日を見ていきましょう。まず朝、子どもの見送りをしたら、8時から9時ぐらいに出勤します。そこから3時、4時ぐらいまで働いて、帰宅します。家族と一緒に夕ご飯を食べて、その後、家族でのリラックスタイムを設けています。

それで終わりで就寝する人もいれば、管理職の方なんかは、子どもが寝てから残りのメールに返事をしたり、明日の準備をしたりします。あるいは、夜が苦手な人は、朝早く起きてそういった作業をします。
『デンマーク人はなぜ4時に帰っても成果を出せるのか』にもそのことを書いたら、「なんだ、残業しているじゃないか」というツッコミもいただいたんですけども(笑)、ポイントはそこじゃないんですよね。ポイントは、「プライベートライフを犠牲にしていない」というところです。
1回家に帰って必ず家族とご飯を食べるみたいなところですね。それで家族に負担がかからないところで、またちょこっと仕事をするみたいなのがデンマーク人の働き方です。
4時に帰るからこそ、成果を出せる
デンマーク人の頭の中にはこういった図があります。プライベートライフを犠牲にして働き続けていると、最初のうちはいいかもしれないですが、ずっと続くとそのうちエネルギー切れを起こして、仕事でも100パーセントの力を発揮できなくなると考えるからですね。
プライベートライフを充実させて元気に仕事に向かうことで仕事の成果も出せて、それがまたプライベートライフにいい影響を与える。こういったポジティブな循環を思い描いています。これがデンマーク人のワークライフバランスです。
なので、『デンマーク人はなぜ4時に帰っても成果を出せるのか?』、この質問自体が、デンマーク人から言わせれば、「4時に帰るから成果を出せるんだ」と。4時に帰るから、休むから成果を出せるんだということになります。プライベートを犠牲にしないから仕事でも成果を出せるんだということです。
そんなデンマーク人が大切にするのは、「ヒュッゲ(HYGGE)」。聞いたことがあるかもしれないんですが、ヒュッゲというのはデンマーク語で「心地良さ」を意味します。日本語で説明すると、安らぎを感じられるプライベートライフみたいなものですね。そういったひと時をとても大切にします。
大事な、大切な人と一緒に過ごす時間とかですね。あと、デンマーク人は自然の中で過ごすのも好きです。森を散歩するとかもふだんからよくしています。
自分も無理しない、相手にも無理させない
「休憩を入れることで最後まで高いモチベーションをキープできる」。この言葉をおっしゃっていたのは、すごくハードに働く建築家ですね。
休憩は職種によって入れ方が違います。例えば建築家の方だと、コンペがある時なんかはすごく集中して、インテンシブに働かなければいけない。そういう時は夜も週末も返上でバーッと働く。その代わり、それが終わったら、1回その分を取り戻す、休むということを意識的にやっているんですね。ちゃんとバランスを取って、また次のエネルギーを出せるようにしています。
デンマークの組織や人間関係、社会を見ていて、「ムリしない、ムリさせない」という法則が見えてきました。自分も無理しない、相手にも無理させない。
これをデンマーク人は無意識にやっているので、デンマーク人が言っている言葉ではなくて、私が発見したことなんですけども、絶対そうなんですよね。どこをどう切り取ってみても、自分も無理しないで相手にも無理させないというふうに配慮するから、いいエネルギーを循環させて、高い生産性とサステナビリティにつながっているんだということです。
こんな感じです。「自分も我慢するから、あなたも我慢してがんばって」みたいな。「自分も無理してがんばっているんだから、あなたももうちょっと無理してがんばってよ」というかたちではまったくなくて。「自分も休むから休みながらやってね。自分も楽しみたいし楽しむから、楽しもうね」という感じで、お互いをケアしながら働いていくのがデンマークのスタイルです。
ほぼすべての職場で導入されている「フレックスタイム制」
こんなデンマークのワークライフバランスを支える制度は、フレックスタイム制、在宅ワークOK、長期休暇、育児休暇、こういった制度が挙げられます。

まず、フレックスタイム制ですが、こちらは週37時間を基本として、出社・退社時間はフレキシブルに自分で決められる。このフレックスタイム制は、もうほぼすべての職場に導入されています。
そして、在宅ワークOK。こちらは、もちろん職種によって在宅ができない仕事もあるんですが、可能な仕事であれば導入されています。
そして、長期休暇。こちらは、年間5~6週間の有給休暇があります。特徴的なのが、夏休みは3週間の連休がもらえるんですね。3週間の連休というのがデンマーク人のスタンダードになっています。
そして、育児休暇。こちらは、夫婦合わせて52週間。約1年間ですね。女性だけじゃなくて、男性も育児休暇を取るのがかなり当たり前になっています。何ヶ月も取る男性もいらっしゃいます。
デンマークでは女性も男性もフルタイム勤務が当たり前
こういった制度によって、デンマークの夫婦は、お互いに家族の時間を確保しながら、キャリアを諦めずに2人とも追求していけるというかたちになっています。なので、デンマークでは女性も男性もフルタイム勤務が当たり前になっています。
ライフスタイルに性別・ジェンダーは関係ない。これはデンマークにいると本当に感じることです。女性が上司という男性もたくさんいらっしゃいます。もう本当に、女性がパワフルだなと感じますね(笑)。
そして、家事育児。これは、夫婦の共同プロジェクトというかたちです。デンマークの男性を見ていると、家事育児を手伝っているとか、家事育児に参加しているとかそういうレベルではないんですね。もう本当にがっつり家事育児をやっているというのがデンマークの男性です。
私がちょっと興味があったので、「じゃあ、それを男性はどう思っているんだろう?」と思って、市の管理職であるハッセさんに聞いてみました。
ハッセさんは、私がインタビューした中では一番日本人的で、ものすごく仕事をする人なんですよ。決められた時間ではなくて、もう家でも仕事のことを考えちゃうみたいな(笑)。仕事の内容だったら携帯を見ちゃうみたいな人で、仕事が好きだからなんですけれども、仕事中毒みたいなところがあるので。
「じゃあ、奥さんが仕事をしていることに対してどう思うんですか?」と聞いたんですよね。そうしたら、「僕は仕事をすることで自分のことが好きになれる」「だから妻にも、仕事をして、ありたい自分でいてほしい」とおっしゃっていました。
そして、組織のトップであり3児の母でもあり、夫は大企業の管理職というヘリーネさん。これだけ聞くと、すごく忙しそうな感じがするので、どんな生活を送っているのか(気になって)、「忙しいんじゃないですか?」と聞いたんですよね。
そうしたら、「日常生活にはゆとりがある。私はきっと優先順位をつけるのがうまいの」とおっしゃっていました。
会議、メール、意思決定プロセス…あらゆる無駄を減らす
こういうふうに、働き方改革が進んでいるデンマークなんですけれども、まだ足りないということで、さらなる働き方改革を進めていらっしゃる方がいます。
テイク・バック・タイムという会社の代表ペニーレさんは、このように述べています。「脳は休むことでクリエイティブになる。そして生産性がアップするんだ」と。ということで、もうする必要がないじゃないかと思うデンマークなんですけれども、さらにデンマークの企業・市区町村に週休3日制の導入を推進して、実際にそれを取り入れている自治体・企業もあります。もっと増えていくのではないかと思います。
では、どうやって働き方改革をすればいいのでしょうか? というところですが、ペニーレさん(いわく)、「とにかく無駄を減らすんだ」ということです。会議、慣習、システム、メール、DX、規則、タスク、ランチ、確認作業、人間関係、社交辞令、承認、手続き、書類、意思決定プロセス。「もういろんなありとあらゆる側面から無駄を徹底的に省いていくことだ」とおっしゃっていました。
私もこの本を書きながら、いろんなデンマーク人に実際に話を聞いて、自分自身の働き方改革にも挑戦していたんですね。そうしてみると、本当に今までいろんな無駄をしていたなということに気がつきました。
会議の参加人数とメールのCCは最低限に
ここで、日本で今すぐできそうなことをピックアップしてみました。例えば、会議の参加人数、メールのCCは最低限にする。会議終了時刻を決める。延長はしない。ダブルチェックはしない。ランチは30分。日本だとランチがおいしいので30分は難しいかもしれないですけど。優先順位4位以降のタスクは切る。といったことだったら意識できるのではないかなと思いました。

冒頭にもお伝えしたんですけども、デンマークの人たちは本当にのんびりしたライフスタイルなんですね。仕事中ものんびりゆったり仕事をしているんですね。それなのに生産性が高い。それは、単純にやることを減らしているわけなんですよ。
自分の仕事の役割は何かということから優先順位を明確にして、優先順位の4位以降はしないぐらいの勢いで、本当に優先順位が高いことをしっかりやる。そういうことによって、高い生産性が生まれています。
仕事は「給料」で選ばない
では、最後にキャリア観について。ヤコブさんは、けっこう典型的なデンマーク人のキャリア観かなと思いますので読み上げます。「給料で仕事は選ばない。自分にとって意味のある仕事をしたい。関心があって、社会的意義がある仕事」。こういった考え方をするデンマーク人は多いです。
ヤコブさんの経歴を見てみましょう。もともとEU職員としてエチオピアで働いていました。そこからデンマーク環境省に転職して、コペンハーゲン市のサステナビリティ事業に携わり、そこから海外の企業・投資家をサポートするコペンハーゲン・キャパシティに転職。
(そこから)現在のBLOXHUBという、先ほどのコワーキングスペースですね。これは、サステナビリティ事業に関わっている企業・個人だけが会員になれるコワーキングスペースです。そこの、グローバルネットワーク担当をしています。
転職回数は多くても「一貫性」がある、デンマーク人のキャリア
今、この経歴を聞いて、なんとなくおわかりいただけたかと思うんですが、転職回数は、まだ若いのにすごく多いんですけれども一貫性があるんですね。彼が追求しているのはサステナビリティとグローバル、このテーマを追求してこういうふうに仕事を移ってきたということになります。
デンマーク人のキャリア観は、非常にプロ意識を持っている方が多いです。キャリアを通じて自分なりのテーマを追求して、その仕事を通じて社会貢献していきたいというかたちです。
そういう目で取材対象者の経歴を聞いたところ、やはりみなさん、いろんな転職歴を持っているんですけれども、やっていることは一貫しているんですね。追求しているテーマは一貫しているんです。こんなふうに見出しが作りやすいですね。
デンマークでは「解雇」がしやすい
「デンマーク人が仕事に求めるもの」。もちろんワークライフバランスは大前提として、収入も考えつつ、プラスアルファ、自己成長、楽しさ、おもしろさ、意味……。意味というのは、社会的意義であったり、自分の中での意味を見いだせるもの。そしてアイデンティティ。こういったものを追求してキャリアを形成していきます。
こんなキャリア形成ができる、支えるのは仕組み的な部分もあります。デンマークにはフレキシブルな労働市場があります。新卒一括採用みたいなものはないんですね。学生の間にインターンで働き始めて、そこから転職してキャリアアップしていくのが一般的なパターンになります。
そして、デンマークは解雇しやすいんですね。解雇しやすい、されやすい。その代わり、積極的に中途採用もしている。一度辞めても戻れるような。企業の中でも辞めた人は辞めた人じゃなくて、辞めた人はそのタイミングでは合わなかったけど、後になって戻ってくるということもよくあります。
離職率は年間約30パーセント、それを上回る就職率
ということで、離職率が年間約30パーセントと高いんですけれども、それを上回る就職率なんですね。なので、解雇されても、あるいは辞めても、雇用の受け皿がある。

それによってどんどん転職していける環境があって、1人あたりの生涯の転職率は平均7回になっています。この回数はもっと増えるだろうと言われています。こういった環境があるので、社会の中で自然に適材適所ができていく。そういった環境があります。
また、教育機会がある。働きながらでも学べる環境があります。先ほど、ノボノルディスク社の例でもあったように、企業が学べる機会を提供している。大企業だったらその企業が提供しているもの。小さい企業だったら、外部の教育を受けられるようにしています。労働時間の一部をその教育に使うこともできますし、企業が教育費を負担して、というかたちもしています。
こういった環境があることによって、デンマーク社会全体で人的資本を最大限に活用できている。だからこそ、生産性、競争力につながっていると考えます。というわけで、これがこの本に書いてある内容のポイントの一部になります。どうもありがとうございました。