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女も男も、管理職はつらいよ 〜昭和100年を本気で終わらせたい人の会~(全5記事)

管理職に“24時間対応”を求める経営層 昭和的な登用基準が組織にもたらす悪影響

”無理ゲー”化する管理職の実態や、新しい時代に求められるリーダーシップのあり方について議論したイベント「女も男も、管理職はつらいよ 〜昭和100年を本気で終わらせたい人の会~」。XTalent株式会社 代表取締役の上原達也氏、株式会社マクアケ創業者の坊垣佳奈氏、エール株式会社 取締役の篠田真貴子氏が登壇。本記事では、昭和的な管理職の登用基準や、育休と子育て体験がマネジメント力に及ぼす影響などについて語りました。

ずっと変わらない昭和的な管理職の登用基準


篠田真貴子氏(以下、篠田):
今日、私が始めに上原さんから話を振っていただいた時、「やらなきゃいけないことの量と種類が多くて大変です」と言ったけど、今の坊垣さんのご指摘は本当に大事です。

仮に誰かがそれ(やるべきことの量)を整理してくれたとしても、経営層が「これをやってください」と期待する大本のコンセプトと、現場でやるべきことがずれていたら、一番根幹の課題は残り続けていますよね。

坊垣佳奈氏(以下、坊垣):まさにそうだと思います。

篠田:うーん、すごいな。

上原達也氏(以下、上原):よくマネジメントの(仕事)量が多いから、「人のマネジメントと事業のマネジメントで役割を分けたほうがいいんじゃない?」という議論もあると思うんですよ。それによって量の負担が解消できたとしても、OSのズレ自体はずっと残るので、実は抜本の解決にならないのが、今の話から「確かに」って思えてきました。

篠田:いや、本当にそうですよね。なるほど(笑)。これは昭和を終わらせて令和に行くところの、最後かつ最大のラスボス的な課題かもしれないですね。

上原:そうですね。

坊垣:結局は「じゃあそれをどう解消していくの?」という話の中では、若手を抜擢したり、やはり若い方が経営層に入っていく。まさに多様性で女性も入れて、みたいなことが言われるわけなんですけど。じゃあ、その「抜擢」の概念。

篠田:(笑)。

坊垣:そうそう、「どういう人を抜擢していくのか」が、そもそもずっと変わっていない可能性もあって。そうすると結局、若手なんだけど、「すごくハードに働けますか?」とか(笑)。 

上原:(笑)。

篠田:たぶん少ないと思われる、昭和100年を生きている若者を探すみたいな(笑)。

坊垣:結局そういうことになっちゃっているのかなぁ、みたいな。

上原:そうですね。でも、そこでまた再生産してしまうと、結局組織のOSが変わらない。

坊垣:そうそう。

篠田:まさにその文脈で時々聞くのが、管理職の選抜登用を「具体的に誰にするんだ?」という議論の場で、「この人は何かあった時に、24時間いつでも対応できるんですかね?」という問いが出てくると。

傾向としては、特にお子さんがいらっしゃる女性が候補になった時に、そういう問題が出てくると。「実際、深夜に駆けつけなきゃいけない状況って、どれだけあるんだろう?」と、素朴に疑問に思うんです。でも、「それができないと(管理職には)なれない」と。これも先ほどの昭和的登用基準。

上原:なるほど。

坊垣:そうだと思います。

篠田:これが問い直したい1つの象徴的な事例だなと、今思い出しました。

坊垣:それも、実際にそういう業務があるという話よりは、ちょっと精神論っぽいですよね。

篠田:そう思います。そんなにしょっちゅう呼ばれるんだったら、業務自体をちゃんと見直そうよという話だから。むしろ駆けつけられない人がマネージャーになったほうが、改善が進むじゃないですか(笑)。だからね、いろいろ矛盾しているのに、本人が気がつけないんです。

坊垣:そうですね。自分がそう求められてきて、それに準じてきたところがありますので。

上原:そうですよね。

「育休を取りたい」意向に男女差はない


上原:
でもこの、24時間オンコール対応できるかという話について、男女賃金ギャップの研究でノーベル経済学賞を受賞されたハーバード大学のクラウディア・ゴールディン教授も、やはり同じことをおっしゃっている。そもそもジェンダーギャップが起きる課題の1つを、いまだに管理職に求め続ける発想は、抜本的に見直さないといけないとは言えますよね。

篠田:本当にそう思いますね。今の管理職になろうという世代だと、まだ女性ということで捉えやすいんだと思うんです。でも、実際に私がアドバイザーをさせていただいているメガバンクで、社内のサーベイを見せていただいたんですけど、今ちょうど社会人になったばかりの世代であれば、「自分が子どもを持ったら、育休をちゃんと取りたい」という意向に、男女差はもうないんですよ。

坊垣:なくなってきていますよね。

篠田:こういう仕組みを変えるには少し時間がかかるから、今から手を打っておかないと、この世代がなだれを打って辞めていく悪夢が、普通に起きるともうわかっている。我々はそういう状況に直面しているんじゃないかなと思いますね。

坊垣:そうなんですよね。まさに男性の育休でいうと、昭和の世代の人たちって「取らなかった」もあるけど、「取れなかった」という表現(が正しい)かなと思っていて。なぜなら、ご本人たちが比較的、「今生まれたら取るなぁ……」「世代が違ったら取るなぁ……」と、意外とボソッとおっしゃる。

篠田:それはちょっと切ないですね(笑)。

上原:(笑)。

坊垣:そういう時代で、その選択肢さえ浮かばなかったし、当然のように(育休)を取れなかったと思うんですよ。「じゃあ、子どもに向き合えてなかったことを後悔していないか?」と突っ込んで聞くと、みなさん「していないわけじゃない」と、おっしゃるから(笑)。

上原:なるほど。

坊垣:だから、当然子どもはかわいいし。「子どもがお母さんっ子になっちゃっているから、結局、奥さんに任せないといけないんだ」みたいなことをよくおっしゃったりするんですけど。

自分が子育てしていて思うんですけど、新生児の頃からお父さんもしっかり育児参画していると、あんまりそんなことないんですよね。子どもがお父さんにもちゃんと懐いているから。そうなっていくと子どもはかわいいし、当然そこに深く関わりたくなる。そんな循環なんだと思っていて。(昭和の世代は)その欠片さえも味わえなかったみたいな。

篠田:切ないなぁ。

育休とはブートキャンプである

坊垣:昭和には、(子育てに関しては)入り口から弾かれていた感覚の方々が、たくさんいらっしゃったんだろうと思っているので。だからこそ、今(育休を)取れる時代になって、蓋を開けてみたら「普通に取りたいです」とみなさんおっしゃるんだと思うんですよね。別に男性だから育児に参画したくないわけじゃないのが、人間としての本音なんだろうとは思っています。

上原:1回参画すれば、「あ、こっちのほうがいいじゃん」って気づく人のほうがたぶん多いと思うんですけど。参画してこなかったからこそ気づけなかった、得られなかったものがあると思うので、ここを変えていかないと、その溝がどんどん組織の経営そのものの問題に発展してしまいますよね。

篠田:そうですね。今のお話に乗っかると、私は特に乳幼児の子育て経験って、マネジメント力を爆上げさせる経験だと思うんです。今、坊垣さんのお子さんの年齢が一番近いから、ぜひご意見をうかがいたいんですが。

うちの子どもはもう大学生と高校生なのでだいぶ昔ですけど、個人の実感としてすごくそう思いました。その後、私の部下に当たる方々が産休・育休を取った様子を見ても、本当に思うんですよね。

親って代わりがいないわけじゃないですか。慣れてくればそんなことないんだけど、初めのうちは、「自分のせいで赤ん坊が死ぬかもしれない」と思っているわけで。

坊垣:いや、本当に。

篠田:そこまでの緊張感、責任感、当事者意識と、「何が起きるかわからない」という不確実性に常に対応しなきゃいけない。自分でもわからないんだけど、とにかく今判断しなきゃって。

これって、まさにマネジメントそのものなんですよね。これを強烈に経験しているって、業務に活きないはずがないと思っているんです。今後の私の希望、期待としては、その認知がご本人にも、職場の周りの方にも広がっていくと、育休という(制度も広がっていく)。

坊垣:本当にそうですよね。

篠田:(育休中は)会社には来ていないから「休み」という感じがあるんだけど……。このことを私がFacebookに書いたら、誰かが「(育休は)ブートキャンプ」と言っていました(笑)。

上原:(笑)。

篠田:むしろ兵役から帰ってきたようなバキバキに鍛え上がってきた感じで、「お疲れさまでした」と言ってお迎えすると(Facebookで)書いている方がいて。

坊垣:確かに(笑)。

上原:クラシコムの青木(耕平)さんがおっしゃっていましたよね。

篠田:そうそう、クラシコムの青木さんです。それぐらいの認知でいいんだと思う。

子育て経験アリな外国人女性上司の場合


坊垣:
併せてリアルな話をすると、結局、自身の部下にそういう世代が当たり前にいるタイミングなわけじゃないですか。だから、自身がその経験をしていないと、まったく相談に乗れないと思うんですよね。

「ライフワークバランス」とか言いますけど、キャリアとライフは絶対に切って切り離せないものである。その中で、仕事のことだけ話を聴いたり理解できても、まったく解決にならないなって思ったりするんですよ。相談に乗れているようで、乗れていない。ライフのことまで上司に相談するかどうかは置いておいても、その背景を理解できる人かどうかは、部下からすると、大きいことだと思っていて。

「わかんないだろうなぁ」と思われている人(上司)には、当然(部下が)相談しないでしょうし。でも、「この人はすごく子どもをかわいがっていて、子育ても一緒にやってきた人なんだな」と思うと、ちょっと言いやすくなったりするのは、絶対あると思うんですよね。

篠田:間違いないですね。

坊垣:私は、主人とがっつり一緒に子育てをやりながら、経営者をやっているんですけど。(職場に)女性社員もたくさんいるので、「これからのことを考えると、自分に今の経験があるかないかで、ぜんぜん違うと思う」と本人(夫)が言っていて、「本当にそうだよな」と思ったりします。

篠田:今のはテキストだったら、本当にフォントを大きくして出したいぐらいのお話ですね(笑)。

坊垣:(笑)。

篠田:すみません、今途中で口をちょっと挟んでしまったんですけど。

坊垣:いえ、ぜんぜん。

篠田:幸運にも私が今こういうかたちで仕事ができているのは、まさに今、坊垣さんがおっしゃったような環境にいられたからです。私は外資系の大きい会社のいわゆる末端中間管理職で、出産を2回しているんですけど。当時、2回とも上司が外国人の女性で子持ちだったんですよ。

特に2人目を妊娠したタイミングは、普通に考えて私が休んでいる場合じゃないだろうという、業務的な火事場が起きている状況だったんです。でも私が「いや、ちょっとこのタイミングであれなんですけど、実は妊娠して、今10週なんです」と言ったら。

第一声で、「とにかく妊娠に良いタイミングなんてない。これで罪悪感を感じる必要はないですから」と、まず明確に言ってくれて、どれだけ楽に感じたか。だからって、別に甘やかしはしないんですよ? 経験者だからこそ「あなた、これだけできるよね」って、バンバン仕事は変わらずやるんだけど。まず、あの時の上司の言葉に、本当にどれだけ救われたか。

坊垣:それはやはり、(子育てを)経験しているかどうかが大きいですし、どういう言葉をかけられるかもそうですよね。併せて、今おっしゃっていた、自身が経験者だから、容赦なく仕事もそれなりにちゃんと振ってくると(笑)。

篠田:そうそう(笑)。

坊垣:そこがわからないと、変な気遣いや遠慮をしちゃうこともあると思うんですよ。「変な気遣いをされているのが困る」みたいな相談もけっこうあるんですよね。

上原:ありますよね。

篠田:上司の方は良かれと思って(気遣いを)するんですよね。

坊垣:そうそう。(気を使われた側が)「もうちょっとやれるのになぁ」みたいな(笑)。「逆にチャンスが奪われている感じがする」という話もあるんですけど、これは経験していない方々が管理職や上司であることの弊害の1つだと思ったりします。

上原:確かに。

篠田:逆にひっくり返すと、それも管理職のつらさの一因かもしれないですね。

坊垣:そうかもしれないですね。

篠田:良かれと思って、この人を支えてあげたいんだけど、どうも自分のやることがずれているみたいで。でも、部下も遠慮して「ずれていますよ」とは言えない。お互いにけっこう「つら」って思いながら、この状況に向き合うっていう。

上原:なるほど。

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