日々燦句

ふらここへ揺れを残して子ら去りぬ(小笠龍雄)

ふらここへ揺れを残して子ら去りぬ(小笠龍雄)

よく見かける光景だが、いざ俳句にしようと思えば雑念が邪魔をしてこう素直に詠めない。特に当たり前の「揺れを残す」に気を止めるだろうか。春の躍動感が雑念を払った。 『青森県句集』第35集より。

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賑はひに少し遅れて八重桜(三浦遼子)

賑はひに少し遅れて八重桜(三浦遼子)

桜のうちで開花が最も遅い八重桜。それが「賑はひに少し遅れて」との見事な詠出に感心する。八重桜の本意を突いていよう。控えめで対象に深く入る視座は気品ある作品を生みだす。 『青森県句集』第35集より。

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目の前に平均寿命花の冷え(小杉郁子)

目の前に平均寿命花の冷え(小杉郁子)

まだまだ先のことと思っていた平均寿命。しかしそれに近くなると不安にかられる。己の心理を如実に表白し、季語に語らせている。ここが上手い。心の屈折は詩を生みだす宝だ。 『青森県句集』第35集より。

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雪洞の傾きはじむ花疲れ(鈴木とまと)

雪洞の傾きはじむ花疲れ(鈴木とまと)

桜並木を彩る雪洞(ぼんぼり)。灯の入る夜など、それだけで華やかそのもの。美しい桜に酔い痴れたぶん疲れもでてくる。その焦点が「雪洞の傾き」。意外な着想に新鮮さが残った。 『青森県句集』第35集より。

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うすうすとけふ咲く予感里桜(春日祐)

うすうすとけふ咲く予感里桜(春日祐)

「けふ」は古語で、“今日(きょう)”のこと。毎日見てきた桜の蕾がいよいよ今日咲くようだ。その興奮を俳句にしている。「里桜」にしっとりとした言葉の艶がある。こまやかな情感。 『青森県句集』第35集より。

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女々しさもわが個性なり梅若忌(坂本吟遊)

女々しさもわが個性なり梅若忌(坂本吟遊)

梅若忌は、謡曲『隅田川』にある哀れな物語の主、梅若丸の忌日である。〈語り伝へ謡ひ伝へて梅若忌〉高浜虚子。その梅若忌と「女々しさもわが個性」と言い切る詩性に才気がある。 『青森県句集』第35集より。

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膝に本落ち春眠を覚ましけり(川越研)

膝に本落ち春眠を覚ましけり(川越研)

“春眠暁を覚えず”と、春はことのほか眠い。脳を持っている動物はすべて眠るとか。言わば本能的な欲求である。本を読むことでとろとろとおそう春眠を素直に表出した。 『青森県句集』第35集より。

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喪の色の蝌蚪の群あり啄木忌(鳴海顔回)

喪の色の蝌蚪の群あり啄木忌(鳴海顔回)

今日は石川啄木忌。〈はたらけど/はたらけど猶わが生活(くらし)楽にならざり/ぢつと手を見る〉有名な歌だ。蝌蚪(かと)を「喪の色」と捉えた作者は、啄木の生涯を暗示しているようで巧みだ。 『青森県句集』第35集より。

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山雨きててんやわんやの蝌蚪の国(川村亜輝子)

山雨きててんやわんやの蝌蚪の国(川村亜輝子)

「蝌蚪(かと)」はおたまじゃくしのこと(中国語)。ひょろひょろと尾を振って泳ぐ。その形体から「てんやわんや」の措辞を生み出した。また「山雨」の斡旋も上手く情景を捉えている。 『青森県句集』第35集より。

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整列を余儀なくされしチューリップ(小泉靜子)

整列を余儀なくされしチューリップ(小泉靜子)

チューリップと言えば細見綾子の〈チューリップ喜びだけを持つてゐる〉を想起する。花を象徴する名句だ。直立する花茎からくる「整列」の措辞はよく判る。硬質の抒情性がある。 『青森県句集』第35集より。

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雑草の名ばかり覚え耕せり(後藤朋子)

雑草の名ばかり覚え耕せり(後藤朋子)

自然に生えるいろいろな草を雑草という。しかしそれぞれ名前をもっている。「雑草の名ばかり覚え」は言い得て妙。土を耕している動きと俳句を生む知の動きに体験からの実感が。 『青森県句集』第35集より。

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白寿まで畑打つ覚悟種を蒔く(阿保子星)

白寿まで畑打つ覚悟種を蒔く(阿保子星)

「白寿」は九十九歳。すごい覚悟。人生百年に相応しい。実際その数も少なくない。自分を奮い立たせることは生きる証でもある。「種を蒔く」に希望が秘められ明るい作品になった。 『青森県句集』第35集より。

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野遊びの土手ふるわせて貨車のゆく(福士野菊)

野遊びの土手ふるわせて貨車のゆく(福士野菊)

春の日射しにつられて遊ぶ子供ら。大人だって土手を散歩する。掲出句にとても懐かしい景色を感じる。時代の流れがあっても、自然な人々を育むことを示唆(しさ)しているようだ。 『青森県句集』第35集より。

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西鶴のをんな闇夜の雪柳(佐藤いく子)

西鶴のをんな闇夜の雪柳(佐藤いく子)

井原西鶴(さいかく)の『好色一代男』は特に有名。長谷川かな女に〈西鶴の女みな死ぬ夜の秋〉があるが、ここでは「をんな闇夜の雪柳」と詠出。しなやかな雪柳にその姿が彷彿(ほうふつ)され文学性あり。 『青森県句集』第35集より。

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父越ゆる靴を揃へる新学期(藤田明子)

父越ゆる靴を揃へる新学期(藤田明子)

人間の成長が顕著にみられるのは背丈。それに伴う靴。子供の成長は早い。父親を越える靴のサイズに驚く。まるでカリバーの靴。さりげない日常から捉えた感情が季語と繋(つな)がった。 『青森県句集』第35集より。

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鳥交るダリの版画の舌伸びて(桜庭門九)

鳥交るダリの版画の舌伸びて(桜庭門九)

スペインの画家ダリは、夢や空想の世界を描き、その後多彩な活動をした。「舌伸びて」の版画にピカソの影響がある。季語との照応に現実的な飛躍が見られ、それでいてナイーブだ。 『青森県句集』第35集より。

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トーストにのせてかをりの蕗の味噌(山内ひろ子)

トーストにのせてかをりの蕗の味噌(山内ひろ子)

スーパーで蕗(ふき)の薹(とう)が売られていると買わずにいられない。大地の恵みである。それぞれの家庭で作る蕗味噌。苦味と香りを楽しむ食材だ。日常におけるささやかな幸福がいちばん。 『青森県句集』第35集より。

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むらさきの白の微風やクロッカス(諏訪正子)

むらさきの白の微風やクロッカス(諏訪正子)

クロッカスは、ヨーロッパ原産でわが国には明治の初めに渡来。人の足元ぐらいの丈で可憐に咲く。掲句は紫に白の斑(ふ)入りがあるようだ。その詠出が「白の微風」で独創性が高い作品。 『青森県句集』第35集より。

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銘入りの剪定鋏手に馴染む(小田桐静風)

銘入りの剪定鋏手に馴染む(小田桐静風)

「銘入り」とあるから、匠の技をもった人の鋏(はさみ)であろう。品質のよい製品ほどよく手に馴染む。余分な重さも変な軽さもない。無駄な力を必要としない職人の鋏を季語を通して讃えた。 『青森県句集』第35集より。

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広告の秘薬気になる万愚節(木村修三)

広告の秘薬気になる万愚節(木村修三)

一年の内、四月一日だけは嘘が許されるエープリル・フール(四月馬鹿・万愚節)。なんと遊び心のある季語か。「秘薬」との照応は、即(つ)かず離れずの関係で意図がそこはかと伝わる。 『青森県句集』第35集より。

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