
蓮佛美沙子が主演を務める夜ドラ「バニラな毎日」(毎週月曜-木曜夜10:45-11:00、NHK総合)が現在放送中。賀十つばさの同名小説をドラマ化した本作は、パティシエ・白井葵(蓮佛美沙子)と料理研究家・佐渡谷真奈美(永作博美)のコンビが大阪の小さな洋菓子店の厨房で始めたお菓子教室を舞台に、五感を刺激する“お菓子の魔法”がそこに集う人々のささやかな幸せを生み出していく様子を描く“スイーツ・ヒューマンドラマ”。
第7週の放送を終え、残すは3月10日(月)から放送される最終週を待つのみとなった。不慮の事故によりパティシエとして大事な右手を痛めてしまった白井は、静(木戸大聖)の歌に勇気づけられ、再びお菓子作りに向き合っていく。WEBザテレビジョンでは、制作統括・熊野律時氏、演出チーフ・一木正恵氏、企画・影浦安希子氏にインタビューを実施。改めて本作への思い、役者陣の魅力を語ってもらった。
自分を出せるお菓子教室の存在は貴重だと思いました
――本作をドラマ化しようと思った経緯をお聞かせください。
影浦 私は書店巡りをよくするんですが、平積みされている本の中ですごくおいしそうなすてきな装丁に惹かれたというのが一番最初のきっかけでした。登場人物が悩みや痛みを抱えている本はたくさんあると思うんですが、それを重すぎない塩梅で描いてらっしゃって。そういう登場人物たちと接する中で、主人公の白井自身も心がほぐれていくというストーリーが魅力的でした。佐渡谷さんという、“強烈だけど芯が温かいおばちゃん”に私自身が惹かれたという部分も大きいですね。
――そして映像化したい、と思われたんですね。
影浦 はい。家族だったり、会社であったり、それぞれの環境で自分の役割があると思うんですが、そういうものを取っ払ったこのお菓子教室の存在、自分を出せる場所というものがすごく貴重だなと。そしてそれが、夜ドラにも合うんじゃないかなと思い企画しました。
蓮佛美沙子さんは白井葵をこの上なく表現してくれました
――登場人物がとても魅力的に描かれているのが印象的です。改めて、キャスティングの理由を教えてください。
熊野 まず、白井葵というキャラクターの、すごく真面目で一生懸命でピュアなんだけれど、どこか不器用さがあるという部分を、蓮佛さんなら、的確に表現していただけるのではないかという予感がありました。蓮佛さんご自身もおっしゃっていましたが、育った境遇や環境は全く違うけれど、人間の本質的な部分で、すごく分かるとおっしゃっていて。蓮佛さんが持っているピュアでストレートな真っすぐさが、白井という役にぴったりはまるんじゃないかと思い、是非にとお願いしました。
永作さんは、キュートさと変幻自在の絶妙な距離感、そしてもちろん素晴らしい芝居の力をお持ちです。今回、佐渡谷というキャラクターは難しい役どころだと思うんですが、白井さんを振り回しながらも、優しくどこか違うところへ連れていってくれるような人物を魅力的に演じて下さり、すごく良かったなと思っています。
一木 当代随一の俳優お二人に演じていただき、本当にぜいたくな時間を過ごさせていただきました。蓮佛さんは、ガラス細工のような危うさと透明感と美しさで孤高のパティシエを表現してくれました。今回多くのパティシエの方に取材をしましたが、パティシエはものすごく重労働なんですよね。朝の7時から24時まで働いても間に合わないほどの仕事量をこなしていくうちに、いつしか心も体も消耗して、もう限界であると…そんな壊れてしまいそうな危うさを秘めた、白井葵という人をこの上なく表現していただき、白井葵さんと蓮佛美沙子さんは同一人物なんじゃないかと思うほどにはまっていて。蓮佛さんの手技と情感あふれるお芝居が、このドラマの最大の魅力になっていると考えています。
永作さんは本当に絶妙な距離感、絶妙な突っ込みと抑制。予測できない芝居は正に“感性のカタマリ”。白井さんに対して、いろんなところから彼女を笑わせようとしながら、ふわふわと漂うように演技してくださいました。そしてなんと言っても、私は永作博美さんの魅力というのは“ミステリアス”だと思っているんです。ちょっとやそっとじゃ本心を読ませない、善なのか悪なのか、天使なのか悪魔なのかという、裏腹な感じがこの作品の前半には非常に緊迫感を与えていると思っています。後半は一転して、白井を娘のように慈しむまなざしと、佐渡谷自身の弱さにも踏み込んで表現されていました。
