仕事をしたくてたまらなかった
── がんは寛解されたんですね。
「おかげさまで。入院したのは7月で、そのときの治療で食道のがんが消えました。結局、入院期間は1ヵ月弱。あとは通院で抗がん剤の投薬を受ける、という日々でした。胃の上部にも早期のがんがあり、8月に一週間くらい入院して内視鏡で取りました。8月30日には復帰の打ち合わせを始め、9月には通院しながら、定期的な打ち合わせで具体的な内容も話し合い、原稿にもとりかかっていましたね」
── 食道がんの原因に心当たりはありますか? 例えば、タバコだったり……。
「よくぞ聞いてくれました(笑)。私はヘビースモーカーで、酒好きなんですよ。とくに漫画仕事をしていると、コーヒーとタバコは欠かせない。ネームを書くときも、打ち合わせのときも、一服して『仕事のスイッチ』を入れていた。タバコを吸うのとコーヒーを飲むのはセット。一緒にやるから美味しくなると思っていた。
でも、もちろん病後はタバコは厳禁、酒もダメ。コーヒーは刺激物だから、ミルクを入れて飲むように言われました。タバコが吸えないのがいちばん辛いかもしれません。それでも仕事はできるんだな、とは思いますけどね(笑)」

── 他に不安なことはありましたか?
「それはもう、仕事ができなくなるんじゃないか、ということに尽きます。体の自由が効かなくなるという不安はもちろんだけど、たとえ良くなったとしても、編集者はまた仕事を持ってきてくれるだろうか、と不安でした」
── かわぐち先生ほどの大御所でも、そう思うんですね。
「やっぱり、仕事をしてなんぼですよ。人生は暇つぶしだというけれど、仕事って最高の暇つぶしだと思う。それと今回の病気で痛感したのは、どんな状況でも、できれば人は仕事をしていたほうがいいということ。少なくとも私はね。病気をしていても、仕事への意欲があったほうが精神の支えになるし、免疫力が高まるように感じるんです。
これは漫画家特有なのかもしれませんけれど、自分の人とのつながりって全部仕事がらみのものなんです。編集者にしろスタッフにしろね。それを見直すきっかけにもなりました。ボーッとして休んで過ごすということは、漫画の打ち合わせをしないということで、用事もまったくなくなる。だからもう、途中から仕事をしたくてしたくてたまらなかった」