「最近、笑ってますか?」の巻

2025年4月8日(火)
宮川 文吾
本連載では、演出家であり脚本家である著者の経験から、他業種の視点でエンジニアに役立つ知識などを紹介していきます。

なんだか『もう春?っていうか夏?』って日と「まだまだ冬じゃん」って日が交互にやってくる毎日ですが、皆様体調崩していらっしゃいませんか。この原稿を書いている日は、なんと明日雪が降ると言っています。数日前は20度あったのに! ということで、宮川文吾です、こんにちは。

唐突ですが、皆さん最近笑っていますか? こう見えて(どう見えてるのか)、私、吉本興業のNSC作家コース出身でして、お笑いについてはガッツリ学んだ口です。

私は神戸出身なのですが、関西の人たちは街中だろうとお店の中だろうと、(おばちゃんを中心に)よくガハガハ笑っている姿を見かけますが、今私が住んでいる関東ではそんな光景はトンと見かけません。

生まれたばかりの頃は、1日平均400回程も笑顔になるのに、大人になるにつれてだんだんと減っていき、とうとう10回もなくなるというデータもあります。

笑いはコミュニケーションの潤滑油

笑いって、コミュニケーションを取る上でとっても大事だと思うんですよね。逆に言えば、笑いがなくてはコミュニケーションではないと言い切ってしまったりしちゃいます。今回は強引にそれを前提でお送りさせていただきます。

いやいや、人を笑わせるなんて無理難題過ぎますよ!

という声も聞こえて来そうですが、無理矢理でもいいんです。こっちが笑いはじめると、相手も本当に楽しくなってくるものです。「よゐこの濱口さん」が以前、めちゃイケという番組で「笑う男」というコーナーをしていましたが、人の笑う姿は、何もなくとも釣られて笑ってしまうものです。

大阪府東大阪市にある枚岡神社では、毎年年末に新しいしめ縄をを鳥居に掛ける儀式があるのですが、その下では大声で笑い倒す儀式というか行事があるんです。これは「しめ縄掛神事(通称:お笑い神事)」と呼ばれており、「1年間の色々な出来事とともに笑い笑って心の岩戸を開きましょう」という趣旨のものです。宮司さんがまず、厳かに笑いはじめ、巫女さんや参拝者も全員が境内で笑い倒します。本当にその場にいたら全員が笑ってしまうもので、ぜひYouTubeなどで検索してみてください。今、自分も確認のために検索して見てみましたが、動画でもしっかり笑えてきます。「笑い」は「笑い」を誘うのです。そして色んな不安も忘れさせてくれる活力の源でもあるのです。

「笑い」は良好な人間関係を構築する

そういう意味でも、コミュニケーションの話題のなかに「面白い」ことや「笑える」ものが含まれていると、良い人間関係がスピーディに築かれます。ぜひ笑顔で話し、積極的に笑うことをお勧めします。「お笑い神事」ではありませんが、笑いはじめると本当に楽しくなってくるものです。

私は度々講演をさせていただいているのですが、コミュニケーションに関する内容で話す度に、

最近、笑っていますか?

と聞くようにしています。

すると、男性の方々は

「いやー、しばらく笑ってないですねー」
「もう数年笑った記憶がないです」

という方が多いですが、女性陣はよく笑っているようです。

「うちの旦那のバカさ加減に笑うしかないんです」と、ある女性が笑いながらお答えいただくと「私も」「私も」のラッシュ。赤の他人に自のバカさ加減を披露されまくる男性陣はたまったものではありませんが、笑いのネタになるのならいいんですかねぇ。

以前私が見た風景ですが、梅田の阪神百貨店で

「孫にランドセルをプレゼントしたいねんけど、一番安いのなんぼ?」

って聞いたおばちゃん。

「6万円前後のものが人気ですね」と答える店員さんに、

「そんな高いカバン、私らでも持ってへんわ!」

といって、現物も見ずにガハガハと笑いながら帰って行かれました。恐るべき大阪のおばちゃん。値段を聞くのはタダ、笑って済ませる。女性はいつでもどこでもよく笑うのです。

楽しい気持ちは共感を生む

「お笑い」を定義するとなると延々と語らなくていけなくなりますが、というか答えが明確ではないように思いますが、コミュニケーションに特化してコツをお伝えするとしたら「面白いと思うことを言うより、自分の失敗談をすること」ですね。そこにユーモアを織り込めれば最高です。相手に楽しい人、という印象を与えやすい。

この「楽しい気持ち」は安心や信頼、そして共感できる人という認識を持ってもらえ、他人との距離がすぐに近くなるのですが、特に声を上げて笑うということは、脳内麻薬とも言われるエンドルフィンの分泌を進めるそうです。これは脳内の内在性鎮痛系に関わり、多幸感をもたらすと言われています。

何なら芸人のギャグを言ってみたり、ちょっとおどけてみせたり、何なら面白くなくても、一周回って面白いみたいな現象もありますし、そんな姿に親近感もわいて「誰にも失敗はある」という共感も覚えられるのではないでしょうか。

立場が上の者であろうがなかろうが、弱点をさらすことによって人間味を感じとってもらうということは、知識や良いところだけでなく、無知や失敗をも表現して共感を呼びます。そういう意味でも、必要や不必要を問わず、会話のなかに「笑い」があることはとても意味があるのです。

緊張の緩和で「笑い」が生まれる

私がNSCに在籍していた頃に学んだことで「緊張の緩和があった時こそ笑いが生まれる」という理論があります。同期の芸人達にコントの台本を書いていたときに指摘された、「お笑い」は舞台の上でまず「緊張」を設定して物語を進め、その後「緩和」を与えて、オチをつけるということです。

そういう意味で、ダウンタウンの年末恒例だった「笑ってはいけないシリーズ」では、タイトルからして「笑ってはいけない」のですよね。ということは、そういう緊張感の中、さまざまな芸人やタレント、俳優やスポーツ選手らが笑いの刺客人として登場し、まさに彼、彼女らが「緩和」の役割を担っているというわけです。

ここまで書いておきながら「笑いを作る」って非常に難しいんですよね。脚本の世界でも泣かせるシーンよりも笑わせるシーンの方が難しいのです。が、コミュニケーションは「人対人」なので、まずは自分が常に笑顔でいられることが相手を笑顔にさせ、場が暖まり、笑いが生まれる環境作りにつながり、強いては、ビジネスの上でも成功への第1歩につながることになると思うのです。

1974年生まれ。演出家・脚本家。コンサート演出、フェス演出、テーマパークショー演出など多岐に渡る。脚本代表作は「はなかっぱ」「ベイブレードバースト神」などアニメ作品が中心。

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