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工・理工系学部で初年度納付金の安さNo.1豊田工業大学 希望者の就職決定率は100%

2020.03.11

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原子 禅
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名古屋市にある豊田工業大は、トヨタ自動車が社会貢献活動の一環として設立した大学だ。同社の手厚いサポートもあり、学費や入学金を合わせた初年度納付金の総額は98万2千円と私立大の工、理工学部では一番安い。校舎面積も、学生数500人以下の大学のなかで全国トップと、充実した教育環境が整っている。(撮影/朝日新聞出版写真部・掛 祥葉子)

優れた教育・研究環境は期待の表れ

一般に私立大学は、学生からの納付金が主財源となっているが、豊田工業大の収入における納付金の割合は9%ほど。授業料は年額60万円と、一部の国立大学よりも安い。

「研究・実験施設も小規模大学とは思えないほど充実しています。本学の特徴をひと言で表すなら『研究志向』。そのために充実した施設は必要不可欠なものです

学生部長の齋藤和也教授はこう話す。2014年からキャンパスのリニューアルも進めており、17年に学生寮、18年には工作機械を使いモノづくりの原点を学ぶ「創造性開発工房」が入った南棟が完成。ホールなどが入る中央棟も完成間近で、20年9月に全面竣工となる。

学生は全員、入学後1年間は寮生活を送る。

「寮は個室を完備していますが、1ユニット8人で生活しています。食堂はあえて設置せず、ユニットごとに自炊することが多いようです。何かをつくり人に喜んでもらうという意味で、料理は工学と相通じるものがある。料理上手は総じて研究の手際もいい。コスト計算、段取り、衛生管理、片付けを通じ、モノづくりの面白さと大変さを体感しています」

2017年に完成した学生寮では8人が1ユニットで生活する。各居室へはユニットごとの入り口、共有スペース「コモンルーム」を通る構造となっている。
2017年に完成した学生寮では8人が1ユニットで生活する。各居室へはユニットごとの入り口、共有スペース「コモンルーム」を通る構造となっている。

就職希望者の就職決定率は開学以来100%。トヨタグループが半分以上を占めるが、大学として同グループへの就職を斡旋してはいないという。

「就職実績として、自動車関連だけでなく、情報通信や家電・化学メーカー、インフラ関連など様々です。名古屋圏の学生は地元志向が強いので、結果としてトヨタ関連への就職が比較的多いと考えています」

充実した環境を整えているのは、学生への「期待の表れ」と、齋藤教授はエールを送る。

「トヨタグループの始祖である豊田佐吉の遺訓に『研究と創造に心を致し、常に時流に先んずべし』があり、これは本学の建学の理念でもあります。『時流に先んずべし』ですから、学生たちには答えのない、新しいものに挑戦してもらいたい。そんな志を持った学生と出会えることを楽しみにしています」

「チャレンジすることを楽しんでほしい」と話す齋藤和也学生部長。「創造性開発工房」で
「チャレンジすることを楽しんでほしい」と話す齋藤和也学生部長。「創造性開発工房」で

実社会を体験し将来の自分を考える

同大では、1年次と3年次に長期間のインターンシップを実施。1年次は4週間、工場のライン作業など、企業の生産工程で実習を行う。

「『モノづくり』の現場を体験しているからか、卒業後の自分の進む道をしっかりと考えている学生が多いと感じています」

知能情報メディア研究室の浮田宗伯教授は学生たちの印象をこう語る。浮田教授の研究テーマは人工知能を用いた画像認識。自動車事故防止や混雑時の経路誘導など、日常生活を支援する多くの分野での活用が期待できる。

「こだわっているのは『ヒト』の認識です。たとえば自動車の運転中に、外部に向けたカメラで、『足取りは確かか』『小さな子どもを連れていないか』などを判断できれば、近未来を予測し、危険を回避できます」

浮田宗伯教授(写真左)と秋田和俊さん。浮田研究室は超解像の性能を競う国際的な競技会で優秀な成績を収めている
浮田宗伯教授(写真左)と秋田和俊さん。浮田研究室は超解像の性能を競う国際的な競技会で優秀な成績を収めている

浮田研究室で学ぶ修士1年の秋田和俊さんの研究テーマは、小さい画像をきれいに拡大する「超解像」と呼ばれるもの。

「通常では認識できないほど小さな画像を、大量の画像からなるビッグデータとの類似性に基づいてきれいに拡大してやることで、どのような画像なのかを人工知能が判断できるようになります」

これにより、たとえばカメラが遠方に捉えたヒトのような少ない情報量からでも状態認識が可能になる。

「これは自動車の危険回避にも応用できる技術です。現在は自動車の衝突回避システムが実用化されていますが、超解像技術により、もっと遠くにいる歩行者や車を見つけることができれば、急停止を必要としない、安心・安全な回避が実現できます」

秋田さんは学部3年次に主専攻として機械システム分野を学んでいたが、副専攻で浮田教授の講義を受け、4年次に電子情報分野の浮田研究室に入ることを決めた。

実際に『モノ』をつくることが好きで入った大学ですが、講義を受けたとき『こんな面白い分野があるのか』と驚きました。その衝撃を忘れられなかったんです」

秋田さんは「博士課程を修了するまでにこの技術を実用化したい」と、今後の抱負を語る。「時流に先んずる」研究者たちの挑戦は、これからも続いていく。

メモ

豊田工業大学 トヨタ自動車が社会貢献活動の一環として1981年に開学。当初は社会人(実務経験者)が学ぶための大学としてスタートしたが、93年から一般学生の受け入れを開始。学部は工学部のみ。学生数は389人(2019年5月1日現在)。

工・理工系学部で初年度納付金の安さNo.1 豊田工業大学

<コラム>文部科学省は毎年、日本私立学校振興・共済事業団からデータの提供を受けて、「私立大学入学者に係る初年度学生納付金平均額(定員1人当たり)の調査結果」を発表している。それによれば、初年度納付金の学部系統別平均は、①文・教育学部117万6847円、法・経済学部113万3308円、②理工系学部144万7682円、③医学部509万1266円となっている(2016年度)。

※「大学なんでもランキング」は今回で終わります。次回からは注目の学部や学科を紹介します。

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