東京オリパラの文化プログラムに出演予定だった絵本作家・のぶみさんが20日、突然出演を辞退した。“教師いじめ”について書いた過去の著書などがネット上で批判されたのが理由とされる。
これについて、大会組織委員会はHP上で「のぶみさんご本人のご意思により出演は辞退されました」とコメントした。

筆者はのぶみさんとこの文化プログラムを総合指揮する俳優東ちづるさんにオンラインでインタビューを行った。
辞退への謝罪と「教師いじめ」の悔恨
――今回出演辞退した経緯と理由について伺います。まず自伝の中で、中学生の頃に担当教師に腐った牛乳を飲ませたり、専門学校時代に授業の進め方が気に入らないと女性教員を恫喝したという記述があって、「教師いじめ」だとネット上で批判されました。
のぶみさん:
まず文化プログラムを出演辞退することで、様々な方々に大変なご迷惑をおかけしたと思っています。申し訳ない気持ちでいっぱいです。自伝については、若い頃の未熟さから人に対する伝え方がわからず、恫喝ととられるようなことをしてしまった。それはいま悔しい思いです。
――腐った牛乳についての事実関係は。
のぶみさん:
教師に腐った牛乳を飲ませたことは事実です。当時担当教師はクラスの生徒に対して厳しい指導を行っていて、僕らからしてみるとこうしたことをするのが些細な抵抗でした。もちろん正当化するつもりはなく、自伝に書くこと自体が未熟だったと思います。自伝に書きましたが、僕は小学校の頃から家が教会だったことや名前がのぶみだったのでいじめの対象にされ自殺未遂もしました。だから自らいじめを行うようなことは絶対にありません。
――2018年に作詞した曲「あたしおかあさんだから」が子育て中の母親などから批判され炎上しました。また2015年に発売した絵本「ママがおばけになっちゃった!」はベストセラーになった一方、母親の死をテーマにしたことが批判されました。
のぶみさん:
「あたしおかあさんだから」は僕の表現が未熟でお母さんたちから批判が集まり炎上しました。それからこれまで3年以上ずっと叩かれ続けていて、決まっていた「ママがおばけになっちゃった!」の映画化もキャンセルとなりました。しかし絵本を書くことしか僕はできないので、もう一度母親について勉強しようと専門家にお話を伺ったり、インスタグラムを始めて発表の場を作りました。

東ちづるさんが語る起用の経緯
――東さんに伺います。東さんはこの文化プログラムの構成からキャスティング、演出から監督まで行っていますが、のぶみさんを起用した経緯について教えてもらえますか?
東さん:
のぶみさんとは2015年に出会ってからのお付き合いです。私は「あたしおかあさんだから」の歌詞を読んだときは個人的にちょっとダメだったんですね。お父さんが不在だなと思ったし、これで気持ちが楽になるお母さんもいるけれど、つらいと思うお母さんもいるなと思いました。そうしたら大炎上して本の不買運動まで始まったんですね。作品とは別に人格否定のようにまでなってしまって、そんな社会は怖いなと思いました。それから多様性など勉強し直されていると知り、若気の至りもあって失敗や間違った人を社会全体で叩いて排除するのは違うと以前から思っていましたので、まだ絵本作家として活動するというのであれば応援したいと思い、出演をお願いしました。
――のぶみさんにはプログラムでどんな役割をお願いしたのですか?
東さん:
「MAZEKOZEアイランドツアー」の中で、障がいの有無まぜこぜのアーティストたちがライブペイントを行うパートへの出演を3月にお願いしました。のぶみさんは当初、緊急事態宣言下でもあり「密になるとマスコミから問題視されるのではないですか。自分が参加すると炎上するのではないですか」と迷われました。しかし炎上騒ぎから3年以上がたち、その間自分の言動と向き合われて、「絵本を皆に応援してほしいし、僕も皆を応援したい。なので僕が役立つかどうかわからないけれど参加させてください」と参加してくれたのです。
ライブペイントは出演者やスタッフの口の中まで消毒を徹底して、全員マスクをして感染対策を行いました。
のぶみさん:
最初は断ったのですが、誘ってくれたのがすごく嬉しかったですし、プログラムも素敵だなと思いました。自分はオリンピックで目立ちたいとか名を出したというのは全くなくて、何か協力できればいいなあという気持ちでした。
――東さんは今回のぶみさんが炎上し辞退したと聞いたときどう思いましたか?
東さん:
のぶみさんが出演する予定だったパートは、十数人のアーティストが参加していて、のぶみさんはその中の1人でした。だからニュースで“辞任”みたいな表現をされて、びっくりしました。パートの中でそんなに大きな役割ではありませんでしたし、一人一人をフィーチャーすることはしていませんから。こんな事になって非常に無念ですし、再生の芽を摘み取るような社会になるのはいかがなものかと思っています。
「暴走族で逮捕歴33回」批判への回答
――のぶみさんの過去について話を戻します。のぶみさんは「池袋連合」という暴走族で総長をしていたのですか?また逮捕歴33回というのは事実ですか?
のぶみさん:
暴走族というのとは少し違って、当時流行っていたいわゆる「チーム」にいました。総長というのは当時の仲間からのあだ名です。学校でずっといじめにあっていて、中学生の頃はそれが嫌で東京中のチームを転々としていました。転々としていたのは1つのチームにいるとそこでまたいじめられると思ったからです。
33回は逮捕ではなく補導です。前科もありません。仲間と悪ふざけをして人気のない小学校のプールに侵入したり、神社の敷地でいたずらをしたりといったものでした。

――あるアーティストが「漫画家のさくらももこさんのお別れ会に行ってないのに行ってきたと嘘を言っている」と名指しこそしていませんが“告発”しています。
のぶみさん:
お別れ会ではさくらももこプロの方にも会っています。だからその方の言っていることは、ちょっと意味がわかりません。僕はずっとさくらももこさんのことが好きでご一緒してきました。それは絶対やめて欲しいですね。
「胎内記憶」絵本批判への謝罪
――のぶみさんは「胎内記憶」をテーマにした絵本も書かれていますが、これがまた批判を受けていますね。
のぶみさん:
あるときサイン会に来た子どもがママのお腹の中にいるときのことを話し始めて、それから胎内記憶のあるという子ども100人くらいから話を聞いて本を書きました。その中には「ママを喜ばせるために生まれてきた」という子どももいました。しかし「子どもは神様と相談してこのお母さんだったら大丈夫だと選ぶ」という話が、障がいをお持ちの方に不快感を与えてしまい、僕の伝える判断が未熟だったと思いますし、これについては申し訳ありませんとしか言いようがないです。
――最後にあるタレントさんとの対談動画で、「ものが売れなくなっても助けてと言い続けていると人って来てくれるんだよね」という会話をされていて「助けて商法」と批判されています。これについてどう答えますか?
のぶみさん:
たぶん僕は自分でやれることは全部やって、それでもどうにもならない時に「助けて」と言うと思います。これを「助けて商法」と言うのでしょうか。もし「助けて」と言ってはいけないのなら、その人は死んでしまいます。
東ちづるさん:
いまの日本は「助けて」と言えなくて命を落としている人がたくさんいます。私も仲間から「HELPと伝えてほしかった」といわれたことがありました。「助けて」というのは自分の人生に責任を持つことでもあると思っています。ギリギリまで悩んだら「助けて」といえばいいと思います。
――ありがとうございました。
【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】