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【鬼筆のトラ漫遊記】新3番・佐藤輝は令和のジキル博士とハイド氏か…先制2ランの後、10打数7三振の明暗

3月28日の広島との開幕戦の一回、先制2ランを放った阪神・佐藤輝明。このポーズの後から…

これは令和の「ジキル博士とハイド氏」を見ているのでしょうか? 阪神の新3番・佐藤輝明内野手(26)は打てば開幕戦(3月28日・広島戦=マツダ)の一回1死一塁の場面での豪快な2ランで勝利の立役者…かと思えば本塁打を打った後は3連戦で10打数ノーヒット、7三振の深い沈黙。開幕カードは2勝1敗も、安定性に欠ける新3番に藤川球児新監督(44)はどのような思いを抱いているのでしょうか。地位やポストは人をつくると言います。打線のキーマン佐藤輝にはチームをV圏に導く活躍をもっともっと見せてほしいですね。

敵地のマツダスタジアムで開幕を迎えた藤川阪神は2勝1敗。3連勝こそできませんでしたが、開幕戦からの連勝でカードに勝ち越したのは上々の滑り出しでしょう。特に開幕戦の先発・村上は素晴らしい投球を見せ、今季はMVPを獲得した2年前のような活躍を見せてくれるのでは…と期待感が膨らみました。1日のDeNA戦(京セラ)では才木が先発します。2人の右腕が競い合って勝ち星を積み重ねていけば、チームは確実に優勝争いに加われます。

広島との3試合を見ただけで少し気は早いのですが、チームとしての傾向は昨季とあまり変わらないと思います。開幕戦のスコアは4ー0、2戦目は3ー2、3戦目は0ー2。開幕カードのヤクルト3連戦(東京D)で3連勝を飾ったライバルの巨人のスコアは6ー5、12ー0、3ー0です。もちろん広島の森下、床田、森とヤクルトの先発陣では充実度に大きな差がありますから、単純な比較はできません。それでも阪神の戦い方の傾向は少ない得点を強固な投手陣で守り切る、2年前や昨季と同じような展開になるーと考えてもいいでしょう。

3月28日の広島との開幕戦の一回、本塁打を放った阪神・佐藤輝明

藤川監督は監督就任会見で「3点取ったら静かに(ゲームを)終わらせてくれる安定した戦いをする」と話していましたが、それはチームの戦力状況やバランスを見た上での〝ソロバン勘定〟であって、開幕からの3試合を見れば、眼力通りの試合だったといえます。

しかし、欲を言えばもっともっと得点力を増やして、もっと安定した戦いになるのが理想でしょう。そのカギを握るのはやはり新3番の佐藤輝でしょう。開幕戦ではいきなり一回1死一塁で森下のチェンジアップを完璧に仕留めて、右翼中段に放り込む先制の第1号2ラン。「開幕戦で打ちたいなと思っていた。一番いい形で、いい結果になってよかった。うれしかったです」と声を弾ませる佐藤輝にファンは夢を見ました。昨季まで主に任されていた5番から3番への変更。これがピタリとハマり、更なる強打者に変貌を遂げてくれれば、阪神打線の得点応力は格段に向上すると誰もが思った瞬間でした。開幕戦は佐藤輝の一発が効いて、4ー0の快勝でした。

ところが、佐藤輝のバットはそこから「春眠暁を覚えず」となります。「春の夜は眠り心地がいいので、朝が来たことに気づけずつい寝過ごしてしまう」の意味ですが、開幕戦は2打席目から三振、一ゴロ、三振…。第2戦は4打数3三振、第3戦は3打数2三振。なんと一発の後は10打数ノーヒットで7三振…。誤解のないように言いますが、別に三振が悪い! という指摘ではありません。考えようによってはチマチマと当てにいって内野ゴロや凡フライを打ち上げてアウトになるぐらいならば、豪快なスイングで空振り三振の方が夢はあります。ただし、本塁打を打った後の11打席(1四球)の内容は悪すぎるのです。


「ストライクとボールの見極めができていないと感じる。ボール球を振らされてカウントを悪くし、さらにボール球を打たされる。自分のペースに相手バッテリーを誘えず、逆に相手バッテリーの揺さぶりに翻弄されているように見える。バットに当てればボールは飛んでくれるのだから、もっと狙い球を絞って、打席に入ってほしい」とは阪神OBの言葉です。

どうも同じようなことをこのコラムで書いた覚えがあります。あれは春季キャンプ中の2月18日でした。紅白戦で畠から豪快な右翼越えの本塁打を放った後、対外試合の2試合で6打数4三振。佐藤輝の打撃を見ていた阪神OBは「打撃の始動からインパクトまでに間がない。長くボールを見られていないから打てる確率は上がらない」と指摘しました。昨季までの4シーズン、打率は・238→・264→・263→・268。三振数は173→137→139→133でした。豪快な本塁打を放つ半面で安定感に欠ける、スランプの時期が長い打撃は今年の春季キャンプの段階でも改善していない…という指摘でした。

3月30日の広島3戦目の九回、見逃し三振に倒れた阪神・佐藤輝明

こうした状況が3番抜擢で、どのように化学変化するのか、が注目だったはずです。地位やポストは人をつくると言います。藤川監督が3番に抜擢した理由は、きっと森下、大山を背後に据えて、相手バッテリーも佐藤輝と勝負に来るだろう、甘いボールが増えるはず…という読みだったと思います。開幕戦の先制2ランは読み通りの一撃だったはずです。しかし、そこから10打数ノーヒット、7三振はボールを追いかけて、姿勢を崩される悪循環の結末ですね。

ロバート・ルイス・スティーヴンソンが1886年に書いたイギリスの怪奇小説「ジキル博士とハイド氏」は人間の二面性を題材にしています。まさに開幕3試合の佐藤輝は「ジキルとハイド」のような両極端な姿を見せていました。まだシーズンは140試合残っています。とにかく打撃内容を改善して、1打席でも多く、頼れる3番の姿を見せてほしいです。

新3番が躍動すれば、阪神打線の得点能力は飛躍的に向上し、投手陣の負担も軽減されるはずです。また、3番の打撃内容の波が大きいままであるならば、指揮官はどこまで開幕オーダーを我慢できますかね。そこも大きなポイントとして今後、浮上するタイミングが来るかもしれません。

40年前の1985年、吉田阪神はバースを3番に据えて21年ぶりのリーグ優勝、球団創設初の日本一に輝きました。その時の並木打撃コーチはバース3番について「チームで一番いい打者が3番に入るべき」と3番打者最強説を唱えました。佐藤輝への期待感は当時のバースと並ぶほどでしょう。頑張ってもらいたいですね。

■植村徹也(うえむら・てつや) サンケイスポーツ運動部記者として阪神を中心に取材。運動部長、編集局長、サンスポ代表補佐兼特別記者、産経新聞特別記者を経て特別客員記者。岡田彰布氏の15年ぶり阪神監督復帰をはじめ、阪神・野村克也監督招聘(しょうへい)、星野仙一監督招聘を連続スクープ。

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