丹下大社長ら役員らは、年間で延べ1200時間を社員の評価会議に費やす。450項目を超える社員のデータを収集し、経営戦略に生かす。スキルと仕事、報酬を連動させ、人材の持つ生産性を最大限に発揮させる。

 「彼の実力は高く顧客の信頼も得ている。最近の成長や成果に鑑みて年収は50万円アップが妥当だ」。事業部長のプレゼンに、丹下社長が口を挟む。「彼は(働く上で)給与を重視しており、満足度が低いようだ。コミュニケーションはとれているのか」

 3月7日、麻布台ヒルズにあるSHIFT本社では、丹下社長ら経営幹部が社員の評価会議に臨んでいた。事業部長が評価対象となる部下の仕事ぶりや成果について説明し、ふさわしい年収水準について丹下社長に提案する。

報酬は先行投資

 半期に1度、経営陣は会議室に籠もり切りとなり、1カ月かけて社員の評価に臨む。丹下社長が評価するのは約500人。他の社員についても、それぞれ評価者が決まっており同様のプロセスで一人ひとりの年収を決めていく。役員陣が1年に費やす時間は、累計で延べ1200時間に上る。

 「部下の給料を上げられない上長は不要だ」。ソリューション事業部の髙松宗剛事業部長はこう断言する。実際、SHIFTは2018〜24年の間、平均すると10%程度の昇給率を維持してきた。

 「社員が頑張ってくれれば必ず成長できるモデルを構築している」と、丹下社長は自信を見せる。経営が稼ぐモデルを作り上げれば、焦点は社員の生産性に絞られる。見込んだ通りの生産性を発揮してもらうためにはどの程度の年収を支払うべきか、見極めるのだ。

 一般的な企業とはロジックが逆転していることに気付くだろう。多くの企業は、売り上げや利益の拡大があるから報酬を増やせると考える。SHIFTは、報酬増があって初めて売り上げの拡大があると考える。つまり報酬を明確に先行投資と位置付けている。

 投資なのだから「社員の報酬を抑えて利益をひねり出すようなことは許されない」(人事本部の中園拓也コーポレート人事部長)。根拠に基づいて論理的に投資額(年収)を示さなければならないのだ。

 見定める基準となるのが「市場価格」だ。「同じ人材を社外から採るとするといくら必要か、常に考えてもらっている」(丹下社長)

 エンジニアやコンサルタントであれば、「エンジニア単価」や「コンサル単価」と呼ばれる、1カ月稼働した際に顧客から得られる単価と年収とがほぼ直結している。単価がはっきりしない部門でも、たとえば法務であれば弁護士のタイムチャージ(時間料金)を参照。人事や総務などでも人材市場や他社の報酬水準を網羅的に調査し、そこから役割と成果に対応した報酬レンジを定めている。

 突出した成果を出した社員はその能力を高く評価され「年間で600万円の昇給を実現した社員もいる」(髙松事業部長)。役割も評価基準も違うから、部下の報酬が上長を上回ることも珍しくない。

 ただし成果は厳密に測られる。社員は評価会議に先立ち、半年の間に達成したい目標を数値でもって示すことを求められる。どんな部署でも例外はない。上司とすり合わせを繰り返し、自らが発揮する価値をKPI(重要業績評価指標)で示す。総務などの場合、「10日かかっていた作業を半分の5日にする」といった形だ。

 もともとSHIFTは、あらゆる仕事をエンジニアの工数のような形で管理することが文化となっている。間接部門でもそれは変わらない。必要な稼働時間などを厳密に管理し、社員一人ひとりの労力や時間が何にどう使われているのか、あるいは使われる見通しなのかを常に可視化し、必要なコスト(労力や時間)と成果の見積もりを精緻に計算してKPIを設定している。

この記事は有料会員登録で続きをご覧いただけます
残り2033文字 / 全文3575文字

【5/13(火)まで・2カ月無料】お申し込みで…

  • 専門記者によるオリジナルコンテンツが読み放題
  • 著名経営者や有識者による動画、ウェビナーが見放題
  • 日経ビジネス最新号13年分のバックナンバーが読み放題