「取引先へのごますりや接待は平気?」「ライフイベントについてはどう考えている? ほら、出産・結婚とかさ」「将来結婚して、夫が海外赴任になったらどうする?」
ある専門商社の総合職採用の最終面接。当時大学4年生だった大橋夏美さん(仮名、20代女性)は社長の言葉に耳を疑った。既に何件かの面接を受けていたが、このような質問をされたのは初めてだった。「女性を接待要員としか見ていないようで、尊厳を踏みにじられた気持ちになった。面接後、悔しさと悲しさで涙が止まらなかった」と大橋さんは当時を振り返る。
面接中に大橋さんの表情がこわばっていくことに気がついたのだろう。社長の両端に座る2人の男性役員が、「社長、そういう質問はほどほどに」といさめたが、社長に悪びれる様子はなかった。
「表向きは女性活躍や働きやすさを強調している会社だったが、実際の職場にはハラスメントがまん延しているのだろう」。面接から数十分後に内定の電話がかかってきたが、失望した大橋さんは迷うことなくその場で辞退した。
「圧迫面接だった」は通用せず
3月に入って学生の就職活動が本格化している。その一方で学生の熱意に付け込んだ「就活セクハラ」が社会問題化している。2019年、住友商事の元社員がOB・OG訪問に来た就活生に性的暴行をし、逮捕された事件を機にクローズアップされた。
■「ハラスメントが会社を滅ぼす」のラインアップ
・[新連載]宝塚、パワハラの連鎖が生んだ悲劇 社内の「聖域」放置の代償
・電通と失脚した花園出場監督の教訓 パワハラでつまずかないチェックリスト30
・「私は好かれている」は勘違い セクハラを正しく理解するチェックリスト30
・フジテレビ、人権軽視の風土あらわ 第三者委「言語道断の内部統制」
・フジテレビ問題、まるで日本版#MeToo 法整備進んだ米エンタメ業界の今
・フジテレビだけじゃない セクハラで5割超が泣き寝入り、2次被害も
・商社で「接待は平気?」と聞かれて涙した就活生 圧迫面接は人権侵害(今回)
など10回を予定
厚生労働省の調査では、「インターンシップ中にセクハラを受けた経験がある」という学生は30.1%。およそ3人に1人だ。インターンでは61.4%が複数回行為を受けている。内容は「性的な冗談やからかい」「食事やデートへの執拗な誘い」が多く、面接やOB・OG訪問などインターン以外の場面でも同様の傾向だった。行為を受けた学生は「就活に対する意欲が減退した」「眠れなくなった」「通院や服薬をした」など影響は大きい。
冒頭の最終面接も一昔前なら、「ストレスのかかる業務への耐性や、出産後も働き続ける覚悟を見極める『圧迫面接』の一環だった」と釈明できたかもしれない。
だが、性別で役割を決めつけ、プライベートの質問を続けることは人権侵害に当たる。学生に多大な精神的苦痛を与えれば企業は法的責任を問われかねない。政府は法改正によって、就活セクハラ防止対策を26年にも企業に義務付ける方針。社員へのセクハラと同水準の対応が求められそうだ。
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