「美しさを諦めない」話題のEZ-6/マツダ6eで表現した「魂動デザイン」の進化系

マツダ EZ-6とマツダデザイン本部チーフデザイナーの岩内義人さん
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マツダは2024年、中国市場向けにBEVセダンの『EZ-6』を発表し、次世代の『マツダ6』登場と話題になった。そして、2025年1月には欧州に『マツダ6e』として導入することを発表し、グローバル展開をおこなうことも明らかになっている。

中国メーカーの長安汽車との共同開発であること、EVであることも話題だが、多くの人が注目するのはやはりそのデザインだ。既存の車種をベースにデザインで差別化する、いわゆるOEM車ではあるものの、“マツダらしさ”と目新しさにあふれるモデルに仕上がっている。いかにしてEZ-6/マツダ6eのデザインがおこなわれたのか。デザイナーに話を聞いた。

◆「美しさを諦めない」オーセンティック・モダンがコンセプト

マツダ EZ-6とマツダデザイン本部チーフデザイナーの岩内義人さんマツダ EZ-6とマツダデザイン本部チーフデザイナーの岩内義人さん

EZ-6/マツダ6eの開発は2022年の春ごろからスタート。まずは中国市場におけるマツダのEVとしてのプレゼンスをどう打ち出すかが重要だった。「(中国市場は)新しさを求めすぎて、奇抜なデザインが目立つのですが、その中でもマツダは美しさを諦めない。安易に目先のトレンドに寄せるのではなくクルマが持つ本来の美しさや感動を大切にして、デザインを練り込んでいきたい。そうすることでマツダは引き続き独自のポジションを取っていこうと考えました」とマツダデザイン本部チーフデザイナーの岩内義人さんは語る。また、現地調査等の結果から、「中国のBEVは先進的であり、ユーザーの期待値もとても高いレベルにあることが分かりました。既にBEVの時代が来ているという印象」と、その完成度にショックを受けたという。

そもそもEZ-6は長安汽車のプレミアムブランド深藍(ディーパル)のセダン、『SL03』をベースにマツダ側でデザインしたいわゆるOEM車両だ。ベースモデルの完成度が高く、またかなりのウェッジシェイプなので、そこにマツダの魂動デザインを纏わせることが難しかったとのこと。さらに中国市場は、「ものすごく先進的でモダンで、想定を超える進化をしていますので、そこに打ち勝つデザインを纏わせないと市場では勝負にならないんです」とコメント。

マツダ EZ-6マツダ EZ-6

そこで打ち立てたコンセプトが「オーセンティック・モダン」だった。「単純ですが、魂動デザインで培ったオーセンティックでピュアな美しさと、電駆時代の新しさやモダンさを融合させるという狙いです」という。そこにはこれまでマツダであまりやってこなかった様々なトライがあるという。「魂動デザインの生命感ある美しさは押えながら、どこまで電駆時代のモダニズムや先進性を融合させられるかにチャレンジしました」。

開発当初は、「どういうものをどんな規模で作ればいいのかが分からなかった」という岩内さん。「そこからベース車両に比べてどこまで変えられるのかからスタート。ベース車両を確認したところ、結構レベルが高く良い感じでできているのでそれを越えなきゃいけないというのを“体感”した時に、初めて背中がゾワゾワっとして、よしこれを越えようという戦闘モードになりました」と当時を振り返る。「中途半端な変え方をして出したら恥をかいてしまう。もう頑張って飛び越さないと絶対ダメだと」意識を変えた。

その結果、Aピラーの位置や角度、Cピラーの位置もそのままだが、それ以外の鉄板部分はすべて手が入っているという。ベース車のメーカーである長安汽車側に見せたところ、「わりと嫉妬されているんです。すごいのを作ってきたみたいな。だから良かったかなと思いますね」とその完成度に自信を見せる。

◆ボディを薄く、低く見せるための「2つのテクニック」

マツダ EZ-6マツダ EZ-6

EZ-6の全体のシルエットは5ドアハッチバックで、ショートデッキのクーペスタイルだ。「中国でヒットした『アテンザスポーツ』から20年経つとEZ-6になるというイメージでしょうか」と岩内さん。「スポーティーかつ流麗さを纏いながら、ハッチバックなのでユーティリティにも優れている印象を与えています」。そのうえで魂動デザイン特有の、「後ろ足で勢いよく前に蹴り出す造形も表現されているでしょう」と話す。また「マツダのCDセグメントセダンとしてモダンで伸びやかさが欲しかったので、(俯瞰したときに)シンプルで美しい紡錘形状を目指しました。そこに自然にタイヤのボリューム感を付け加えているのです」と説明。そして、「いたずらに美しさの原理に反するような人工的なデザインではなく、ピュアでタイムレスな美しいデザインをやり切りました」と岩内さん。

ベースモデルはバッテリーを搭載している関係で全高が高くなり、かつFF(前輪駆動)的なサイドビューシルエットだった。岩内さんとしては、「マツダのCDセダンとして車高を低くしたり、Aピラーを少し室内側に引いたり、キャビンをちょっとタイトにしたり、水平方向のキャラクターを作りたいと考えましたが、どうしても動かせない箇所があり、ベース車両から印象を変えるのが難しかった」とのことで、初期のクレーモデルでは非常に悩んだそうだ。

マツダ EZ-6マツダ EZ-6

そこでボディを薄く、低く見せるために2つのテクニックを用いた。まず、「あらゆるモチーフを水平方向に見せるために細かく分断して、なるべく視線が前後方向に抜けるように見せています。これにより前後方向に長いカタマリに見えてくるのです」。人間でも横ストライプを着ると太ってボールドに見え、縦ストライプを着るとスリムに見えるのと同じ効果を狙ったのだ。

次に、「“上半身”と“下半身”のそれぞれに “長尺モチーフ” をつくりました」と岩内さん。「上半身ではショルダーを軸に前後ランプ、ベルトモール、ドアハンドルなどを一本に束ねるイメージで長尺モチーフにしています」。下半身は、「加飾や黒く落とした箇所を連続させて長尺モチーフにしています」とし、この上下2本の長尺モチーフで、「全長をくまなく使い切り、圧倒的な“長さ感”を演出しているのです」と説明。

こういった工夫により、「太く鈍重だった初期のクレーモデルが、最終的にはスリークで長く見えるようになりました」。そして岩内さんは、「弱点があるとそこに工夫(=テクニックや逆手に取るアイデア)も生まれます。そういう意味で副次的な効果もあり、これまでにない下部加飾のリッチなモダンさが生まれたり、ウェッジの効いた初代『マツダ6』を彷彿させるようなフレッシュなスポーティーさが生まれたりもしました。今回は弱点があり悩んだからこそ従来のマツダから一歩踏み出すようなデザインができたのかなと思います」と語った。

◆「艶」と「凛」の比率

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マツダのデザインは「艶」と「凛」という2つの言葉を用いて面表情をつくり立体造形をしている。艶というのは、「面に張りがあって豊かでセクシーな表情を指しています」。凛は、「フラットでシャープな緊張感のある表情です。この2つの面質のギャップを巧みに融合して、魂動デザインは、ドラマチックなサーフェイスを作っているのです」と岩内さん。

当然EZ-6でも艶と凛のサーフェイスは随所に取り入れられている。例えば、「リアのぎゅっと絞り込まれた紡錘形状ですが、相当丸みを帯びています。これが艶の表情です」。一方、「フロントフェイスは徹底した凛の表情で、モダンさを表現しています」という。もともとマツダのフロントフェイスは、「エアインテークの形状やコーナーの形状で柔らかく表現しているパターンが多いのですが、今回は割とスパスパッと切ったようなドライな面構成に」することで“凛”とした表情をつくりあげたのだ。

またボディサイドのショルダー部分は、「(艶として)筋肉のようにとても張っています。その下にある照り面は、反り返るほどにシャープでスパッと切れている(凛の)表情ですね。そうすることで、それらの表情を過去最大級の“ギャップ”で極端に振り切りました」と話す。

マツダデザイン本部チーフデザイナーの岩内義人さんマツダデザイン本部チーフデザイナーの岩内義人さん

これまでのマツダ車と比較すると、「個人的には艶は15%ぐらいアップさせて、凛が30%アップさせているようなイメージですね」とのことで、「これまでにないモダンな新しいのを出すために特に凛の成分を多めに注入しているのです」と説明し、「甘いものを感じさせるのに、ちょっと塩を入れて甘さを引き立たせるというイメージです」とのこと。

マツダ車のフロントマスクで重要な要素「シグネチャーウィング」は光るように仕上げられた。岩内さんは、「これまで魂動デザインの家紋として、クロームでシグネチャーウィングを表現してきました。そこから新たにBEV時代を表現すべく、モダンさを訴求するために羽ばたく翼を光で表現しています」という。この光はアニメーションの機能も付加されており、オープニングの時に光が動いたり、給電の時に点滅してインジケーターになったりなど、BEVとしての先進性を示すようなアイテムとしても使われている。

マツダ EZ-6マツダ EZ-6

また中国の夜のイメージを「派手で光の渦のような感じ」と捉え、「ビルや店の電飾もすごいですし、そのノリがダイレクトにクルマに降りてきている印象があります。そこで、夜間、光で存在感を表すのも間違いなく先進表現の一つだと考えていますし、遠くからでもマツダが来たとすぐ分かるようにデザインしているのです」とコメントした。

このデザインを日本で見ることができる日はくるのか。『マツダ6』なきいま、日本市場での展開にも期待したい。

《内田俊一》

内田俊一

内田俊一(うちだしゅんいち) 日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員 1966年生まれ。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を活かしデザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。また、クラシックカーの分野も得意としている。保有車は車検切れのルノー25バカラとルノー10。

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