出所:日刊工業新聞/共同通信イメージズ出所:日刊工業新聞/共同通信イメージズ

 イノベーションの実現を追い求めることは、人々の幸せにつながるのだろうか――。こうした問いに向き合うために必要な視点について「イノベーションを生む『創造する人』、イノベーションによってスキルが『破壊される人』の双方について理解を深めること」と語るのが、早稲田大学商学学術院教授の清水洋氏だ。2024年11月に著書『イノベーションの科学 創造する人・破壊される人』(中央公論新社)を出版した清水氏に、創造する人と破壊される人の双方を包摂する社会をつくるために必要なこと、イノベーションを生むためにビジネスリーダーが備えるべき考え方について聞いた。

「創造する人」と「破壊される人」が共存できる社会へ

――著書『イノベーションの科学 創造する人・破壊される人』では、イノベーションにおける破壊と創造を「人」の観点からひもとき、イノベーションとの付き合い方について論じています。イノベーションがもたらす「創造の側面」のみならず「破壊の側面」にも言及する内容としたのはなぜでしょうか。

清水洋氏(以下敬称略) 私はこれまで「経済成長をもたらすイノベーションをいかにして生み出すか」について研究してきました。大学の授業やゼミでは「企業はどのようにイノベーションを生み出すのか」「どのような施策を用意すれば、企業がイノベーションを生み出しやすくなるのか」といったテーマを扱っています。

 ある日、学部生が「イノベーションを追い求めることは、幸せにつながるのか」という素朴な疑問を投げかけてきました。イノベーションと幸せはそれぞれが独立した概念ですから、私は「イノベーションと幸せは、関係がありません」と教科書的な回答をしました。しかし、どうもしっくりきません。そこで、改めてイノベーションの創造的側面と破壊的側面の双方について考えてみよう、と考えたことが本書を書いたきっかけです。