トランプ政権が導入した相互関税で原油市場は急落(写真:ZUMA Press/アフロ)

トランプ政権が発表した「相互関税」に、マーケットは大揺れだ。大幅に下落しているのは米国株や日本株だけではない。「トランプセッション」とも呼ばれる景気後退懸念が強まり、原油需要も低迷するとの見方から、米WTI原油先物価格は3日、前日比で一時8%も急落した。だが、トランプ関税は原油価格の動向を決める大きな要因だが全てではない。原油と取り巻く環境を整理する。

(藤 和彦:経済産業研究所コンサルティング・フェロー)

 米WTI原油先物価格(原油価格)は今週に入り、1バレル=66ドルから72ドルの間で推移している。地政学リスクの高まりから、原油価格は一時、5週間ぶりの高値となったが、その後、需給に対する懸念が生じ、大きく下落した。

 まず、いつものように世界の原油市場の需給を巡る動きを確認しておきたい。

 ブルームバーグは4月1日「石油輸出国機構(OPEC)の3月の原油生産量は前月比11万バレル減の日量2743万バレルだった」と報じた。ナイジェリアが日量5万バレル、イラクが同4万バレル減らしたのが主な要因だ。

 OPECとロシアなどの大産油国で構成するOPECプラスは4月から予定通り生産量を日量13万8000バレル増加させた。

 だが、目標枠を超えて生産を続ける一部の加盟国の動向が懸念材料だ。イラクは3月に減産したが、目標枠を日量15万バレルも超過している。

 最大の攪乱要因となっているのがカザフスタンだ。3月の原油生産量は前月比5万バレル増の日量188万バレルとなり、目標枠を40万バレル以上も上回っている。

 米石油大手シェブロンのテンギス油田での拡張工事が完了し、生産量が日量26万バレル増加したため、生産調整が困難になっているからだ。

 カザフスタン問題がOPECプラスにとって重荷となっている中、ロシア政府は4月1日、黒海の石油輸出施設の操業を一部制限したことを明らかにした。ロシア南部クラスノダール地域にあるクロポトキンスカヤ原油送油管を運営するカスピ海パイプライン・コンソーシアムの施設がウクライナのドローン攻撃を受けたことが理由だとしている。

 米石油大手シェブロンなどが採掘したカザフスタン産原油を輸出する黒海のターミナルにある3つの係留施設のうち2つが閉鎖されたため、カザフスタンの原油輸出量は日量140万バレルから70万バレルに半減すると言われている。

 ウクライナのおかげでOPECプラスは過剰供給問題に一息つけたが、今後も厳しい舵取りを迫られることは間違いない。