自閉症の娘「マスク無理」 障害特性、感覚過敏【読者に応える】

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 「自閉症の娘が、こだわりや感触の特性でマスクが着けられません。日帰り温泉で、館内の利用を断られました」

母親の祐子さんが着けてあげようとするマスクを、顔を背けて嫌がる娘の真衣さん(右)。この日は、大好きな植物園を訪れ、障害があることを説明したらマスクなしでも入園できた=5月、京都市左京区・京都府立植物園
母親の祐子さんが着けてあげようとするマスクを、顔を背けて嫌がる娘の真衣さん(右)。この日は、大好きな植物園を訪れ、障害があることを説明したらマスクなしでも入園できた=5月、京都市左京区・京都府立植物園

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 京都新聞社の双方向型報道「読者に応える」のLINEに、母親からの悲痛な声が届いた。新型コロナウイルス感染防止のため、マスク着用が「当たり前」になりつつある中、偏見におびえながら暮らす現状だという。
 声を寄せたのは、京都市西京区の福田祐子さん(53)。長女の真衣さん(25)は、自閉症スペクトラムと重度の知的障害がある。障害の特性で体の感覚が過敏で、マスクが着けられない。
 祐子さんがマスクを着けてあげようとすると、真衣さんは嫌がってその手を払いのけ、不快な表情を浮かべた。祐子さんは「皮膚感覚や口をふさがれる圧迫感が、我慢できないのかな。知的障害の娘はマスクの必要性を理解できないし、無理強いすると自傷行為につながってしまう」と話す。真衣さんは、他人のマスク姿も不安に思うようで、既に膝をかむなどの自傷行為があったという。
 5月、お風呂が大好きな真衣さんを連れて、家族で京都府内の日帰り温泉施設に出掛けた。すると、受付で「マスクしてください」と言われた。障害の特性があってマスクを着けられないことを説明しても、「他のお客さまが嫌な思いをするかもしれないので」と浴室以外の売店や休憩所の利用は断られた。
 風呂から上がった後は髪も乾かさず、施設を急いで離れざるを得なかった。祐子さんは「同じ人間なのに、違う扱いをされて悲しくなった」と話す。
 政府の新型コロナウイルス感染症対策専門家会議は5月4日、今後の感染拡大に備えた「新しい生活様式」を提言し、その実践例として「外出時、屋内にいるときや会話をするときは、症状がなくてもマスクを着用」と求めた。マスクの着用を入店条件にする商業施設などが増えており、今夏以降も「マスクが当たり前」の社会が予想される。
 祐子さんは「外出時、『マスクを着けろ』と怒鳴られたり、白い目で見られたりしないか不安です」とし、「施設や店舗が『マスクなしでもOKの日や時間』を作ってくれるとうれしい」と話す。
 「新しい生活様式」を担当する厚生労働省結核感染症課は、京都新聞社の取材に対し「感染予防には、手洗いなどを含め総合的な対策が必要で、マスクの有無が全てではない。マスクを着けられないからといって、不当な差別につながることがあってはならない」としている。(京都新聞社)

 ■「受け入れ環境整備を」 香野静岡大教授が指摘
 発達障害児支援を専門とする静岡大教育学部の香野毅教授によると、自閉症は感覚障害が根源で、触覚が過敏なためマスクを着用できないケースは少なからずある事例だという。肢体不自由といった障害と異なり、外見から感じ取ることは難しい。香野教授は「障害のある人が生きにくさを感じるのは社会の問題。理解を示して、受け入れる環境を整えていくべき」と指摘する。
 マスク着用を求めた日帰り温泉施設の対応は、感染症予防の観点から「責めることはできない」とする一方、受け入れ環境整備を求めた。改善策の一つとして、一般客を入れずに、障害者が優先的に利用できる時間や日を設ける「バリアフリーデイ」の設置を挙げた。一方で香野教授は「目で見て理解することは得意」とする自閉症の傾向を生かして、家庭内でマスク着用の練習を薦める。親が子の前でマスクを着用して見せることで抵抗感が和らぐという。(静岡新聞社)
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