ヘアドネーション「次は私が助ける番」 3年伸ばした髪、晴れやかにカット 浜松・原田さん【NEXT特捜隊】

 髪の寄付「ヘアドネーション」の意義をもっと多くの人に広めたい。私自身を通じ伝えたい。私が「生きた証し」として―。

切り落とした毛束を手に、久々のショートヘア姿を鏡で確認する原田久美子さん(右)=9日午後、浜松市中区の「ピケ」
切り落とした毛束を手に、久々のショートヘア姿を鏡で確認する原田久美子さん(右)=9日午後、浜松市中区の「ピケ」

 血液のがん「多発性骨髄腫」で闘病中の社会福祉士の原田久美子さん(55)=浜松市西区=から、本紙「NEXT特捜隊」に切実な思いが届き、やりとりを続けていた。「3年伸ばした髪を9日に切ります」。そう聞いて美容室に同行した。
 寄付された髪の毛で作ったウィッグ(かつら)を、病などで髪を失った人に贈る「ヘアドネーション」。原田さん自身がかつて救われた。2017年、抗がん剤治療の副作用で髪を失った。「次は私が誰かを助ける」。思いに駆られた。
 以前より高価なシャンプーを使い、髪の手入れに気遣った。「臓器移植も献血もできなくなった私にもできる社会貢献がある」。そう思えた。伸びるのは少しずつ少しずつだった。一度寛解したがんは昨年再発。ヘアドネーションへの気持ちはさらに高まった。
 浜松市中区のヘアサロン「ピケ」。9日午後、鏡の前に座る原田さんの髪は31センチまで伸びていた。店長の岩田康良さん(39)が髪を5束に分け、はさみを入れた。カットに要したのは、わずか数十秒だった。
 「すごく軽くなったよ」。原田さんは晴れやかな表情で切りたての毛束をひとまとめにして、レターパックに。早速、窓口のNPO法人「JHD&C(ジャーダック、事務局・大阪市)」に発送した。
 原田さんの脳裏にはあの日、あの時が次々に浮かんだ。
 2017年10月、強い抗がん剤を使い始め間もないある日。シャンプー中に髪が大量に抜けた。「ドラマのようだった」
 髪が抜けることは医師から説明を受け、理解していた。髪がまた生えることも分かっていた。それでも「たまらないつらさで、涙が止まらなかった」。衝撃は、がん宣告を受けた時以上だった。
 地毛は3カ月ほどで再び生えてきた。十分に伸びるまでの半年ほどの間にあった息子の卒業式、友達とのお花見、職場復帰…。ウィッグがあったから、再び前を向き、人と接することができた。
 切り終えた髪を見詰める原田さんの顔に涙はなかった。「達成感でいっぱい」。続く闘病へ再び前を向いた。
 (鈴木美晴)

 ■ウィッグができるまで
 寄付された髪はどういう工程でウィッグになるのか。全国には複数のヘアドネーション団体がある。原田久美子さんが今回送ったジャーダック事務局に聞いた。
 さまざまな提供者から集まった髪は、薬品に漬けて、質感や色を均一化する。ジャーダックでは、希望する子どもに合わせたサイズの台に植毛し、無償提供する。一つのウィッグを作るには30~50人分の寄付が必要。現在も約500人の子どもがウィッグを求めているという。

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