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誰も教えてくれない60代からの上手な資産の取り崩し方

60代からの資産「使い切り」法

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「退職後のお金との向き合い方」と銘打ったセミナーや書籍は数多くありますが、「資産の上手な取り崩し方」、そして退職後のお金との向き合い方を包括的に見る視座はなかなか提供してくれません――。野尻哲史さんの『60代からの資産「使い切り」法』(日本経済新聞出版)から抜粋・再構成して解説します。

私は1982年に大学を卒業して以来、43年間、証券会社、運用会社で働き、定年を迎えた今も自分の会社を作って、金融業界の端っこで、この業界にかかわりを持って仕事をしています。

現役の頃、仕事柄、多くの人の前で講演したり、メディアに寄稿したりして、投資教育に懸命になっていましたが、そのなかで常に2つの質問に悩まされていました。

1つ目は、「退職まで資産運用をしても、万が一、退職の時にリーマン・ショックのようなことが起きたらどうすればいいんでしょうか?」、そしてもう1つは退職された方からの、「今さら資産形成って言われても、もう資産を増やすことはできそうにない。まして運用する資産もそれほどない。どうすればいいんですか?」の、2つです。

皆さんだったら、これらの質問にどうお答えになるでしょうか。

1つ目の質問に対して、

「それを避けるためにも退職時期に向けて資産の構成比を調整しながらリスクを軽減していくことを考えましょう」

とお答えになるでしょうか。

答える人がまだ定年、退職などを実際に感じていない現役の人の場合にはそうした答えもあるでしょう。でも実際に退職してみると、この答えは「正しくない」ことを痛感します。

というのは、退職しても資産運用を続けることを前提にしている人が、自分も含めてかなり多くいるからです。実際、フィンウェル研究所が行った「60代6000人の声」調査(2024年)では回答した6506人の42%が資産運用を行っています。それを考えると、「退職=運用を止める」という前提を基に考えられた、「退職に向けて運用リスクを減らす」というのは正しいアドバイスではないと思うのです。

退職時点でリーマン・ショックが起きたら?

では、正しい回答は何でしょうか。

「退職時点で一気に運用を止めると考えず、部分的に運用を止めていくことを考える」

というのが、今私が正しいと考えている回答です。

「運用資産を徐々に取り崩していく」、または「運用を続けながら少しずつ取り崩す」と考えると「退職時点でリーマン・ショックが来たら」という一時の金融相場の波乱があっても、取り崩しに時間をかけることでその影響を弱めることができる、と考えています。『60代からの資産「使い切り」法』の最大のテーマがここにあります。この意味を、しっかりと説明していきたいと思います。

今ある資産の寿命を延ばす「資産活用」の重要性

2つ目の質問は、金融機関主催のリタイアメント・セミナーと銘打ったセミナーでお話をさせていただいていた頃の参加者の質問です。こうしたタイトルのセミナーを開くと、参加者は既に退職されている方が多いものです。

実は、主催者側は「リタイアメント(退職)に向けての準備を念頭に置いたセミナー」のつもりで、40-50代に来てほしいと思っているわけですが、参加者側は「リタイアメントした人(退職した人)向けのセミナー」と捉えていますから、当然、参加者は60-70代ばかりとなります。

その参加者に向かって、事前のお約束通り「将来に向けて今から資産形成を始めましょう」と伝えても、これはなかなか受け入れられません。その結果、「なんだ、儲かる銘柄を教えてくれるわけではないのか」とか、「投資ができるほどの資産を持っていない私は、結局何もできないということか」といった不満が残るものになります。そもそもそうした集客準備が中途半端だったからですが、それでも運用だけで退職後の生活の準備が成り立つわけではありませんし、退職してからはそれがよりはっきりわかるはずです。

退職したら、収入は限られますから、われわれは「どうやって今ある資産を死ぬまで枯渇させないようにできるのか」を考えるようになります。

対策には、資産運用も必要でしょうが、それだけでどうにかなるものではありません。それよりももう少しリスクの少ない方法を先に考えるというのが一般的なはずです。その選択肢を使ったうえでまだ心配になるときに、はじめて資産運用も考えるという優先順位のつけ方だろうと思います。

「資産の取り崩し方」は誰も教えてくれない

詳しくは本書でも詳しく説明していますが、退職後は、

生活費=勤労収入+年金収入+資産収入

の等式で生活を考えるようになります。

これは、退職後の生活で資産寿命を延命させるには、①生活費を引き下げること、②勤労収入を少しでも多く(長く)すること、③年金収入を少しでも多く受給できるようにすること、④資産収入を長く・多く確保できるように取り崩し方を考えること、の4つが対策として挙げられることを示しています。そして生活水準を下げないようにして、生活費を削減する、長く仕事を続ける、年金受給額を増やすなどを実行しながら、最後に「持っている金融資産の取り崩しはどうするのが一番効率的か」と順番に考えることになります。

それらを包括的に考えることを私は「資産活用」と呼んでいます。

すなわち資産活用とは、「生活費、勤労、年金、資産の取り崩しの4つを上手にコントロールしながら、今ある資産の寿命を延ばすこと」という意味で、さらに「退職後にお金とどう向き合うか」ということでもあります。

金融機関はビジネスの持続を優先させるため、常に「運用をすることが必要だ」と説くことに終始します。退職した人の個別事情を考慮しないこうしたメッセージを送り続けていても、退職者の納得は得られないものだと思いませんか。

また多くのアドバイザーやファイナンシャル・プランナーなどの専門家は、資産運用のアイデア、生活費を中心とした節約アイデア、勤労収入確保の重要性、年金の受け取り方といったノウハウを教えてくれますが、「資産の取り崩し方」とそれら4つを「包括的に見る視座」はなかなか提供してくれません。

そうした包括的な資産寿命の延命策をアドバイスしてくれる金融アドバイザーは、まだまだ少数派です。そのため、今のところ「退職後のお金との向き合い方」といった多くの対策を含むことを、整合性を持って包括的に考えることは、自分でやるしかないのが実情です。

いやそれどころか、「お金との向き合い方」そのこと自身をわかっていない人の方が多いのかもしれません。そのため、退職金の多くを運用につぎ込んでしまった投資初心者が後を絶たず、債券といいながら複雑な仕組みで大きなリスクを内包する、いわゆる「仕組み債」の被害を受けるといった実害も起きているのです。

『60代からの資産「使い切り」法』では、退職後のお金との向き合い方を「資産活用」という視点からまとめています。もちろん包括的な目線を忘れないようにしながら、欠けている部分である「資産の上手な取り崩し方」についてより詳しく解説をしていきます。

『60代からの資産「使い切り」法』

現役時代に築いた資産を、どのように運用しどのように使っていけば、リタイア後の生活を長く安心に楽しむことができるか? 本書は、日本ではあまり語られなかった、安心な「取り崩し」の技術について、運用会社で投資教育を長年行ってきた著者が解説します。
野尻哲史著/日本経済新聞出版/1760円(税込み)
野尻哲史(のじり・さとし)
合同会社フィンウェル研究所代表。1959年生まれ。一橋大学商学部卒。82年山一証券経済研究所、同ニューヨーク事務所駐在、98年メリルリンチ証券東京支店調査部、同調査部副部長、2006年フィデリティ投信入社、07年フィデリティ退職・投資教育研究所所長。19年5月、定年を機に合同会社フィンウェル研究所を設立し、資産形成を終えた世代向けに資産の取り崩し、地方都市移住、勤労の継続などに特化した啓発活動をスタート。18年9月より金融審議会市場ワーキング・グループ委員、22年9月より同審議会顧客本位タスクフォース委員。
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