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大谷翔平、二刀流再始動の新たな武器はツーシーム?

スポーツライター 丹羽政善

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その打席はセンター方向から見ていた。時々、前に人が立って視界が遮られたが、その瞬間は投げていたエンゼルス・菊池雄星の背中もはっきり見えた。やや外角高めの真っすぐ。快音を残した打球は左翼へぐんぐん伸び、最後は元チームメートのテイラー・ウォードがフェンス際で打球を見上げた。

2月28日、アリゾナ州で行われたオープン戦。初打席でいきなり本塁打となったドジャース・大谷翔平本人も納得の口ぶりだった。

「体の状態と動き方は比例してくる。外旋(構えたトップの位置からのスイング軌道)がもうちょっと出てくれば、スイング自体ももっともっとスムーズになっていくと思いますが、きょうは違和感なくできた」

昨年のワールドシリーズで脱臼し、オフに入って手術をした左肩はまだ可動域が100%に戻っているわけではない。それでも「空振りもありましたが、体的には問題がなかった」。打者としては順調なスタートを切ったといっていいだろう。

一方で二刀流を再開する今季に向け、投手としても一つひとつステップを重ね、新たなスタイルが見え始めている。

ブルペンでの投球練習も開始しているが、すでにいくつか手術前からは変化が見られる。例えば、いわゆる「直球」のフォーシームの回転効率が76%だったのが90%前後に上がり、それに伴って縦の変化量も大きくなっている。

実際に試合で投げていかないとその傾向が定着するのか分からないが、ツーシームも投げ始め、その軌道もこれまでとは異なっていた。基本的には真っすぐ系なので、フォーシームのデータが変化している以上、想定内なのだが、そもそもこれまでツーシームはほとんど投げてこなかった。仮に投球全体に占める比率が10%を超えてくるようなら、手術後のスタイルの変化を示すものとなるのではないか。

過去の大谷のツーシームの配球比率はこんな感じだ。

ツーシームの軌道についても、Baseball Savantのデータがある。22年は縦の平均変化量が17.3センチ、横の平均変化量が40.9センチだった。23年は縦の平均変化量が15.2センチ、横の平均変化量が37.3センチだった。しかし、今キャンプで投げているツーシームは縦の変化量が大きくなっている。

そこへ話を進める前に変化量の定義を簡単に説明しておきたい。その球が無回転で重力のみが作用した場合、ホームベース上のどの地点を通過するかを基点とし、実際の到達地点との差を求めたものだ。その差というのは、回転効率、回転数、回転軸によって生じ、縫い目の影響も受ける。

縦の変化量に関しては、プラスの値が大きく、しかも、リーグの平均値を上回るなら、打者は「伸びてくる」と錯覚する。横に関しては、やはりプラスの値が大きく、平均値を上回るなら「横に動いている(スライドしている)」と打者は感じる。

これまでの大谷の投じるツーシームの変化量は、縦横ともにほぼリーグの平均値だった。メジャーの打者にとっては見慣れた軌道であり、さほどバットに当てるのは難しくなかった。配球比率が低かったのもうなずける。右打者が踏み込んでくるのをけん制する役割は果たせても、打ち取るため、空振りを取るための球としては使えなかった。

では、現在投げているツーシームは、どんな軌道なのか。

まだ、非公開だが、あるスマートフォンのアプリを使って映像を撮影すると、ボールの軌道、回転数、回転効率がわかる。その精度はトラックマン(弾道測定器)と何ら変わらない。まだ、大谷がブルペンで実際にツーシームを投げている球数は限られるが、2月18日の計測ではこんな結果が出た。

22、23年シーズンのデータと比べると、明らかに回転効率がアップし(22年は70%、23年は80%)、縦の変化量が大きくなっている。回転効率と縦の変化量はある程度連動するので驚きはないが、わかりやすい表現としては、伸びてくるツーシームに軌道が変わっていた。

コースにもよるが、右打者にしてみれば、沈むというより自分の胸元をえぐられるような軌道だ。また、その縦の変化量がこれまでの平均値を約25.4センチも上回っているので、かつての大谷のイメージで対戦する打者のバットは、ボールの下を潜るのではないか。

では、どの投手のツーシームに似ているのか? 

そもそも縦の変化量が約38センチを超えるツーシームを投げるのは、昨季のデータで8人しかいないが、縦横の変化量が近いのは、左投手ではあるものの、フィリーズのホセ・アルバラードという投手だ。昨季は縦の平均変化量が37.8センチで横が30.5センチ。一昨年は縦が38.1センチ、横が32.3センチだった。彼のツーシームは左打者の胸元に鋭く食い込んでくるが、現在の大谷が投げているのは、まさにそんな軌道なのである。

もっとも、ツーシームは、高さによって変化が異なるので、そこは理解しておく必要がある。大谷も先日、そんな話をした。

「(ツーシームを含む)シンカー系に関しては、スポットによって縦成分、横成分の変化が変わってくる。メカニクスもそうですけど、どこを狙って、どこのロケーションに球がいっているか。前回のブルペンに関しては多少、比較的ストライクゾーンの下の位置に集まっていたので基本的には縦変化が強かった」

ベルト付近の高さでは横に曲がり、高めは吹き上がるような軌道となり、低めであれば沈む。これはカットボールでも同じような傾向が出る。

では、実戦で投げ始めた場合、どんな軌道になり、大谷自身はどう使おうとしているのか。「もうワンステップ(出力を)上げたときにデータがどういうふうにブレるのか、チェックしていきたい」と話す。投手・大谷の新たな武器となるのか、まずはそこが注目のポイントだろう。

ちなみに、なぜ軌道が変わったのか。大谷自身、メカニクスという言葉を口にしたが、追ってその変化をさらなるデータとともに紹介したい。

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拝啓 ベーブ・ルース様

米大リーグ・ドジャースで活躍する大谷翔平をテーマに、スポーツライターの丹羽政善さんが彼の挑戦やその意味を伝えるコラムです。

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