バンドを充実させる"本当の腹の括り方"をwash? に訊いてみた──8thアルバム『SPLASH』配信

夏も終わりかけているといのに、体温が2度ほどあがってしまいそうな熱いロック・アルバムが届いてしまった。a flood of circle、クリープハイプ、髭などのプロデュースで知られる奥村大(Vo,Gt)を中心とする3ピース・バンド、wash? 。2002年より活動し、2011年に現メンバーの河崎雅光(Ba)、杉山高規(Dr)が加入、2014年に現体制へ。これで通算8枚目となるアルバム『SPLASH』をリリースした。wash? の武器である「バンドの疾走感」と「特徴的なディストーション」を 全面に押し出したパイロットソング「水なしで一錠」をはじめ、 速い8ビートの上で前のめりにのせたヴォーカルが焦燥感と爽快感を呼ぶ「ナイトミュージック」などを収録した全7曲。「非日常的」と「ハッピー」が共存した、彼らの音楽愛の溢れる作品となった。
2015年はTSUTAYA 0-WESTでのワンマンライヴを成功におさめ、充実した1年を過ごしたという彼ら。その日々を超えて、いまの彼らはさらなる高みを目指しているようだ。進化を止めないwash? のヴォーカル&ギター、奥村大とベースの河崎雅光に話を訊いた。
wash? / SPLASH
【Track List】
01. シーソー
02. 水なしで一錠
03. ガールフレンド
04. baby baby
05. Rust
06. utUtu
07. ナイトミュージック
【配信形態 / 価格】
16bit/44.1kHz(WAV / ALAC / FLAC) / AAC / MP3
単曲 216円(税込) / アルバム 1,512円(税込)
INTERVIEW : wash?(奥村大、河崎雅光)
怒髪天、フラワーカンパニーズが再ブレイク、今年はOLEDICKFOGGY等が超盛り上がる中でわかったことは、ロックは若者のためだけに咲いているのではないということ。芸術であるバンド… 年をとりモノを知ることで減ってしまった無鉄砲は、技術を磨き、強度を高め、新しいことに挑戦し続けることによって、簡単にカヴァーできちゃうことを証明してしまった。wash? は、その最先端を突き進むバンドだ。それは音を聴いたら一目瞭然! 彼らを見くびってたら痛い目見るぜ!
インタヴュー&文 : 飯田仁一郎
写真 : 大橋祐希
吐き捨てる歌詞とそうじゃない歌詞だったら、そうじゃない歌詞のほうがおもしろい
──毎回アルバムは7曲収録なんですね。この曲数だとミニ・アルバムっていう人もいて、”アルバム”と言えるぎりぎりの曲数だと思ったのですが、何か理由があるんでしょうか?
奥村大(以下、奥村) : これは俺たちのこだわりというよりもレーベルの社長のこだわりなんですけど、「聴く側としては一生飽きずに聴ける長さだ!」と。作る側としてはちょっと物足りなく感じるんですけど、やり続けてると必要以上にやり切った感がないから次に引っ張られていく感じもあって。最初は何曲もクビにするのがさみしかったですけど、いまは楽しいですね。
河崎 : 俺たちが音楽に興味をもった頃はアナログ・レコードの時代だったので、10曲収録とかだとA面5曲、B面5曲って意識する癖もあって。
奥村 : わかる。そこで世界観ちょっと変えようみたいなね。
河崎雅光(以下、河崎) : だから、7曲ぐらいがひとつの世界観を出しやすいと思ってます。

──なるほど、おもしろい。wash? のことを少し遡って訊きたいのですが、2014年に4ピースから3ピースに体制が変わって、それから2枚目のアルバムです。バンドの個性はいっそう固まってきた感じがしますか?
奥村 : 3人になる直前から今の流れになってますね。
──今の流れというのは?
奥村 : 表現のスタイルって言うのかな。吐き捨てて相手を傷つけるような表現が前は結構好きだったから使ってたし、そういう歌詞を書く人も好きだったんですけど。自分の中で怒りの時期は過ぎちゃったって感覚があって。ちょうどそのタイミングに、俺らの兄貴分から吐き捨てる歌詞とそうじゃない歌詞だったら、そうじゃない歌詞のほうがおもしろいって言われて。「やっぱりそうだよな」と納得できたので、意識して拳を後ろに隠したり、ユーモアにしたり、ちがう表現ですっとぼけてみようと思って。それをさらに踏み込んだのが今作って感じ。
──まさに「水なしで一錠」はそうですよね。
奥村 : そうです。怒りすぎてわけわかんなくなっちゃった感じですね(笑)。
──「怒りの時期が過ぎてしまった」というのをもっと具体的に言うと?
奥村 : もっと広がりを持ちたいと思ったんですよね。怒りのエネルギーに同調してくれることはあるんだけど、怒り自体はやっぱり拒絶の表現でもあると思うので。いまの時点でwash? を気に入ってくれている人は、次に何をやっても俺ららしいねって笑ってくれるだろうと思ったから、それなら自分のなかであんまり広げてなかった部分に行こうと。
──”広がり”というのは知名度のこと?
奥村 : そうですね。もっとwash? のこと気に入ってくれる人を増やしたいし。単純にロック・ミュージックっておもしろいんだなって思う人が広がってほしいと思うしね。そのなかでなにか一石を投じたいから。
進歩してないと現状維持ってできないですからね
──その想いが強くなったというのも、2015年の動きが関係してるのかなと思うんですけれども。「2015年は飛躍の年になった」というツイートを拝見しました。
奥村 : そうですね。2015年の5月に3人体制でのはじめてのアルバムを出して、そのレコ発ファイナルをTSUTAYA O-WESTでワンマンライヴをやってほしいと社長に言われたときは、本当に頭がおかしいと思った(笑)。でもそこにあっさり乗った河崎と杉山にも「お前ら正気か!?」と思ったけど。社長以外は手弁当で協力してくれるようなやつらばかりの環境で、おっさんバンドがWESTでワンマンをできたことはこれまでのファンに恩返しできたなって思いますね。ツアーも今までで1番回った数が多くて、知らない人もいたと思うけど、どんどんみんな観に来てくれて、会場でもアルバムがすごく売れたし、打ち上げにも他のバンドからいっぱい話しかけてもらってね。その後もTwitterで反応くれたり… 愛され出してるのかもしれないなって自分たちが勘違いするぐらい良い経験でした。
──体制が変わったその年が飛躍の年になったのって、自分たちでは何故だと思いますか?
奥村 : ……なんでだろうね? (河崎を見る)
河崎 : 3ピースになってもっとシンプルになったんだと思いますね。奥村が書いた歌詞を3人でシンプルに鳴らして、かっこいいと思ってることが明確になっていったし、ライヴでも余計なものはどんどん削ぎ落として。

──余計なもの?
奥村 : ここで盛り上げないといけないと思って言葉で煽ったり、手拍子を強要したりってあるじゃないですか。もちろん他の人のやり方は否定しないですけど、俺らの中ではほとんどなくなってて。その場で俺らが音を楽しむ姿を覗き見してもらおうと思ったんですよね。そしたら向こうも勝手に盛り上がれるって気づいて、お客さん側でも俺ら側でも自由度が上がった。しゃべることも前はすごく考えてましたけど、いまはほとんどその場で客の顔見て浮かぶことをしゃべってる感じ。そのほうが伝わるのがわかってきたし。だからなにか変化がおこったり、トラブルがおこってもすぐに反応できるんですよね。力んでると想定外のことに反応できない。
──前はもっと肩肘張ってた?
奥村 : そのときはそうは思ってなかったんですけど、3人になってから、そういうことを考えても勝てないなと思った。言葉は悪いけど、諦めというか、開きなおりというか。本当に腹くくるってこういうことかって。
──腹をくくるっていうのはどんな?
奥村 : 「自分以上にはなれない」ってことに近いかな。本当にすごいって思われたかったら、本当にすごいことをやらなくちゃいけない。シンプルな帰結ですね。ドーピングしたところで、例えばステージに照明をバーンってやってもらったところで、どっからどう見たって、44歳のおっさんがやってることだし。でも、安い言葉だけど若いバンドに負ける気は全然しないし、対バンすればどんな人気バンドだって一泡ふかせてやるぜって思ってると。
河崎 : 40歳すぎてバンドをやってて、どうやったら勝てるのかを考えたときに、とってつけた感がバレるなら、そういうものは削ぎ落として、本当に自分たちが好きなことじゃないと続かないと思って。それは切実な話で。後輩も増えて、もっと頑張ってる先輩もいて、そのなかでwash? を聴いてもらうには、せめて知ってくれてる仲間にだけでも、毎回いいよねとか、進化してるよねってことが伝わらないといけないと思うし。まずはそれを課題にしながら、打ち上げであっても、なにかひとつでも情報をとってやろうと今は必死なんですよね。でもそのぐらいやらないとダメになっちゃうと思うんです。
奥村 : なにも成してないですからね、俺ら。現状維持ですら…… 進歩してないと現状維持ってできないですからね。そして色んなところで僕も河崎も人の手伝いをしてるし、そこで得たノウハウをなるべくバンドに還元しようとしてます。
──その意識がO-WESTに繋がったってことですよね。それはすごいことだと思うんですよ。
奥村 : WESTのワンマンは、ファンもなんですけど、身内のバンドマンたちがものすごく喜んでくれて。それが嬉しかったですね。こんなにみんな自分のことのように喜んでくれるんだって。当たりのいいこと言ってるけど、音はうるせえし、時間は押しがちだし、俺ら嫌われてんだろうな、ぐらいに思ってたけど、意外なほどみんな認めてくれてるんだって(笑)。
前々作から始まった感覚のある種の最終型… であり、キックから始まるまた新たな挑戦って感じ
──そのWESTから次に繋がったのが今作だと思うのですが、サウンド面でもっと踏み込んだ部分はありますか?
奥村 : 今回はドラムとどう関わるかを考えて。最近の生楽器を使ってるバンドものを聴くと、キックの感じが昔と変わってきてるなと思ったんですよね。それをやってみたいと思ったときにエンジニアの池田洋くん(hmc)と、ドラムテックを手伝わせてって言ってくれた友人の猫騙っていうバンドをやってる安部川”minzoku”右亮くんと、すごく言葉が通じたんです。
──そのキックの音というのはどう違うんですか?
奥村 : 面積は減らないけど、止まった音。ラウドな音像が好きなバンドの”どぉーん”って鳴るようなキックじゃなくて、若干ダンス・ミュージックよりって言ったらいいのかな。”どっ!!”って音が止まってて、でも存在感は消えてない。ロック・バンドは生音でやるとたいがいアタック中心になって、わりと腰高な音楽になりがちなんですけど、ダンス・ミュージックでは低音大事だから、身を取るというか、アタックとるというより揺れてる本体をとるというか。加工してたりするのかもしれないけど、そういう音が気になってたんですよ。そういう音を池田くんに聴かせながら話をしたら「ああ、こういうキックですよね」ってすぐ返してくれて。これはもう大丈夫だと。
──そのキックに対してベースが変えた部分はありますか?
河崎 : …僕はね、こだわりがめっちゃないんですよ。
──ベースの音に?
河崎 : そうです。曲の音としてミックスルームで流れたのを聴いて、いいものはいいし、もっとよくなるためにベースをこうしたほうがいいってのがあればそっちに向かうし。キックは、奥村がこういうキックだって言うなら、それに合う音で鳴っていればいいかなって。
奥村 : 今回に関して言えば、必要以上には逃げなくなったよね。帯域の住み分けの話ですけど。

──他にも研究した音ってあるんですか?
奥村 : ファズをバッキングで使うとホワイトノイズに近い状態になって音程感が出なくなったりひっこんで聴こえちゃうのを池田くんにマイクの立て方を変えてもらって。普通レコーディングってそんなに大きい音出さないと思うんですけど、俺らは大きい音を出すんですね。それでアンプが揺れるんですよ。そのアンプの揺れによるノイズをちゃんと拾ってくれて。「あ! そうそうそう、これこれ!」っていう。「俺が聴いている音はこういう音!」って。
──揺れてるアンプの音を録ってくれたんだ。それどうやって録ったんだろう?
奥村 : 普通はスピーカーに対して立てるじゃないですか。俺はいつも3本ぐらい立てて、マイクのブレンドで音をつくるんですけど、今回スピーカー前は2本にして、もう1本をスピーカーとアンプの端っこぐらいにリボンマイクを1個立てて。それを中心にマイキングバランスをとったんですよ。こうやると抜けるんだ! と思って。
──トータルで思ってた音像になった?
奥村 : 前々作から始まった感覚のある種の最終型… であり、キックから始まるまた新たな挑戦って感じです。
グッドメロディーの欠片もないけど「ああ!」って思い出してもらえるような
──メロディーが際立ってるなと思うんですけど、奥村さんはどのようにメロディーを作っているんですか?
奥村 : やっぱり家でアコギ持ってみたいのが多いですかね。しょっちゅう触ってるんですけど、ごくたまに、ギターと自分が相性良いときがあって。指の感触だったり、ちょっとしたコードの響きがすごく良く聴こえたり。そういう日はチャンスの日だと思うのでネタをいっぱいつくる。日記みたいなものですけど。
──アレンジはスタジオで3人揃って考えてますか?
奥村 : 基本はそうですね。
──アレンジで意識してる部分ってありますか?
奥村 : つねにポップでありたいとは思ってるんですけど、ポップって誤解されてるのが、若いヤツと話してるとちょっと凝ったメロディーと美しいコード進行がなきゃいけないみたいな強迫観念をよく感じるんですね。そういう子たちによく俺らが言うのは、キャッチーならいいんだって。リフが特徴的であったりとか、「ほら、あの曲」って言ったときに「デーン! デーン! デーン! ってやつ」とかって言って。それってグッドメロディーの欠片もないけど「ああ!」って思い出してもらえるような、それを大事にしろと。河崎はそういうキャッチーを見つけてくるのがすごく得意なので。
──河崎さんも意識されてるんですね。
河崎 : そうですね。そこを必ず曲には入れたいなと思うし。
──ポップでありたいというのはおふたりの性質ですか?
奥村 : そう。河崎に至っては大ネタ好き。大ネタすぎて、どうしようって思うこともありますけど(笑)。

──そのルーツはどのあたりにあると思いますか?
奥村 : 俺のルーツの1番最初はBOOWYですね。バンドをはじめたころはクラッシュが大好きだったんですけど、パンク・バンドの現役感のあるミュージシャンはそのころいなかったから、俺の好きな音楽って終わってんのかなって思ったらマニック・ストリート・プリーチャーズが出てきて「あああよかった!」って。その直後がグランジですね。グランジ出てきたときは「俺の趣味に世界が追いついた!」と思いましたもん。でも音的な意味でも歌詞的な意味でもファッショナブルなバンドよりはちょっと泥臭いバンドのほうが好きです。誠実っていってもいいかもしれないですけど。
──河崎さんは?
河崎 : サザンですね。(スパッと)
──ああ! 納得しました。
奥村 : 車でツアー回ってたりすると、深夜、運転しながらずっとモノマネで歌ってますからね。それで俺らも「お、これいいじゃん!」みたいな(笑)。
──大ネタを持ってくるっていうのにも納得ですね。奥村さんのルーツを聞いた上だと、なんでwash? はレジデント的なロック・ミュージックがルーツにあるのにこんな音を鳴らせてるんだろうって不思議だったんですけど、河崎さんの一言でしっくりきました(笑)。最後にこれからのことを訊きたいのですが、2016年は前回のWESTでのワンマン的な挑戦はあるんですか?
河崎 : 今回はワンマン・ツアーですね。
奥村 : いままで大阪と長野の伊那市、あと東京でしかやったことなかったから、今回は名古屋と仙台にも行って。
──ワンマンはやっぱり特別ですか?
奥村 : 時間の制約があって、今回セットリストでこれはできない、みたいなのはいつも悩みの種なので。そういうのを考えなくていいのは楽しいですね。あとはもっといい曲あるんだよ、ってことをお客さんに伝えられると思うので。
河崎 : 昔、お世話になってた先輩に「昔はワンマンが主流で、対バンはワンマンがこなせるようになってからやれるものだった。バンドはワンマンができてなんぼだよ」と言われたことがあって。それがずっと残ってて、バンドやる以上、定期的にワンマンをやれるようにならないとダメだと自分的には思ってるので。ワンマン・ツアーがどうなるかわかんないですけど、やりたかったことがまたひとつできるのは楽しみです。
LIVE INFORMATION
wash? 『SPLASH』レコ発
2016年9月9日@東京・下北沢Club251
wash? 『SPLASH』リリース・ワンマンツアー
2016年9月24日@大阪para-dice
2016年10月1日@長野・伊那Gramhouse
2016年10月28日@仙台flyingson
2016年11月25日@名古屋ロックンロール
2016年12月16日@東京・下北沢Club251
PROFILE
wash?
奥村大(Vo,Gt) / 河崎雅光(Ba) / 杉山高規(Dr)
2002年 wash? と命名。活動開始
2007年3月 盟友aeronautsとの共同イベント「猿犬(ENKEN)」開始
2011年1月 河崎雅光、杉山高規 加入
2014年7月 トリオ形態に移行