Laura day romanceは、両極の“なかみち”を進む──サード・アルバム前編『合歓る - walls』リリース

鈴木迅(Gt.)、井上花月(Vo.)、礒本雄太(Dr.)(L→R)
いま、Laura day romanceは目まぐるしい進化を遂げている。たしかな実力で着々と国内外からリスナーを集め、ライヴの規模は回を重ねるごとにスケール・アップをし続けている。そんな彼らがアナウンスしたサード・アルバムは前後編の2部構成となり、この度、前編となる『合歓る - walls』(読み:ネムル ウォールズ)がリリースされた。歌詞における箱庭的な親密さと、リアルを超えていくようなサウンドスケープが共存した、渾身の一枚だ。このアルバムを携えて、Laura day romancはどこへ進んでいくのだろう。メンバー3人に話を訊いた。
リアリティを持ったまま広がりをみせる、至極のサウンド
INTERVIEW : Laura day romance

本作は、Vo.井上の過去のエピソードから、“名前のつけられない関係“というテーマが導き出された。今回のインタヴューにおける楽曲の解説は、一握りのヒントにすぎない。それでも私たちはそれを手掛かりにして、自らが望む分だけ作品の世界に潜り込むことができる。Laura day romanceはその余白を用意してくれている。それこそが『合歓る - walls』が豊かな作品であることの何よりの証であろう。
インタヴュー : 飯田仁一郎
文 : 石川幸穂
写真 : 山川哲矢
「合歓る」= 分け合えるものと分かち合えないもの
──今作の『合歓る - walls』は、前後編に分かれたうちの前編とのことですが。
鈴木迅(Gt./以下、鈴木):ここ最近は映画やシーズンもののドラマとか、長い物語がゆえに描ける登場人物の細かい感情の推移にすごく惹かれていて。それを自分の作品に還元したくて、こういう構成になりました。はじめは前後編に分けずに20曲を一度に出そうと思っていたんですよ。
──なんと! 前編におけるテーマはなんでしょう。
鈴木:正解として聞かれてしまうので確定的なことはあまり言いたくないんですが、ジャケットの写真にもあるように登場人物はふたりいて、それぞれの視点やインナーの世界が今作のメインですね。
──テーマやコンセプトは、メンバーのおふたりには共有されていたんですか?
井上花月(Vo./以下、井上):ふたりの登場人物っていう全体像と、最初のきっかけになったことくらいですかね。
──きっかけというのは?
井上:私には中学からずっと仲がいい女性の友だちがいて、その子に対して一目惚れのような感じだったんです。その子とは友情というよりは家族に近いけどそうではない、“名前のつけられない関係“で。あれはある種、恋をしていたんだと思うんです。それを迅くんに話したら、身近にそういう話をする人がいなかったみたいでびっくりされて。そこから迅くんが人との関係性について色々と考え始めてくれました。

──井上さんとのやりとりからテーマが生まれたんですね。
鈴木:映画とか本でもそうなんですけど、自分事になるタイミングというか、テーマと自分の距離感が急に縮まる瞬間があって。今回はそれがかっちゃん(井上)との会話からもらえたという感じです。
──鈴木さんが書く歌詞に対して、どう歌に落とし込んでいますか? すごく難しい歌詞だと思いますが。
井上:最近は難しさに慣れちゃいました(笑)。私はストーリーを求めるというよりは自分と重ねられるところを探し出して歌っていますね。あと映画みたいに情景描写から喚起されるイメージみたいなものがいくつもあって。そういう空気感を歌に入れるようにしてます。
──歌の表現に対して、普段鈴木さんから指示はあるんですか?
井上:ほぼ言われたことないです。
──それは鈴木さんからしたら、ある程度井上さんに任せているということでしょうか?
鈴木:そうですね。初期の頃は自分がいろんなことを決め込んでいたんですけど、それをやっていくと隙間がどんどんなくなっていくのを感覚的に学んでいったんですよ。たくさんの人の解釈が入ることでちょっとずつ作品がでかくなっていくので、今作ではフィルインであったり歌いまわしであったり、自分がディレクションせずに信頼して任せようというのはありましたね。

──ドラムに関してはどう作っていきましたか?
礒本雄太(Dr./以下、礒本):迅とふたりでスタジオに入って試行錯誤しながら作りましたね。よく舞台装置の例えをするんですけど、「なんでもないところでこの照明を当ててみたら意外と良かった」とか、そういうパズルみたいな作り方をしました。随所随所にある変なフレーズはそういう作業によって生まれましたね。
──Laura day romanceにおいて曲の完成は、レコーディングで最終完成なのか、それともアレンジまで含めて完成した曲をレコーディングに持っていっているのでしょうか?
鈴木:それは考えたことがなかったな。完成…… どこで完成なんでしょう。さっき曲に隙間を持たせていると言いましたけど、その隙間になにをいれるか最後の1秒まで悩んでいるんですよね。ミスをそのまま採用したり、そういう偶発的な要素は以前より取り入れるようになってきています。マスタリングまではまったく終わりじゃないというか、本当に最後までっていう感じですね。
──今作のレコーディングはどこで行いましたか?
鈴木:ギターとボーカルのウワモノは、西新宿五丁目の〈Submarine STUDIO〉で。ドラムは西荻窪の〈Tuppence Studio〉と中野の〈TSUBASA Studio〉で録りました。
礒本:〈TSUBASA Studio〉はおもしろくて、音がすごく響くスタジオなんですよ。全部の音が聴こえてくるのにひとつひとつの音の輪郭はぼやけているような音像で。プレイヤー目線では明確に聴き取れたほうがやりやすかったりするんですけど、曲によってそういう混じりけを含んだ音もありだなというのは発見で、楽しいレコーディングでした。

──今作において特にこだわったところはありますか?
鈴木:スケール感ですかね。いままでの作品はコンパクトな側面が強かったと思っていて。サウンド面では繊細であり、及ぶ範囲みたいなのは大きくあるということを意識しました。物語としては内側の世界を冒険するようなアドベンチャー感を持たせたくて、イマジネーション豊かなものにしました。リアルな手触りのものからスタートして、そのリアルを大きく超えていくようなイメージです。
井上:繊細かつタフネス、だよね。
鈴木:ホールみたいな広い場所でも映えうる音楽を作るというのが、セカンド・アルバム(『roman candles | 憧憬蝋燭』2022年)から自分のなかでの課題だったので、そこは考えながらトライしましたね。
──タイトル『合歓る - walls』はどういう意味なんでしょうか?
鈴木:「合歓(ねむ)」という花があって、タイトルに使いたいと思っていたんです。それと、僕にとって人と共有できないことの象徴として「眠る」という行為があって。眠るのはひとりだから共有することはできないですよね。自分の内側には自分しか行けないという「眠る」、それに対して「合う(会う)」、「歓ぶ(喜ぶ)」という人と共有するものをイメージさせる漢字を当てることによって、分け合えるものと分かち合えないものというふたつの意味を持たせたかったんです。今作は「walls」なので立ちはだかる壁のような、分かち合えない側面が強いですね。前編後編で、「合歓る」に対応する言葉が変わるんです。